【5】発見と闘争

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「起きてって‼︎ あんたが寝ててどうすんの‼︎ 」  べしべしと頬を叩かれ、僕は動かない瞼をなんとか持ち上げる。  床は硬い。そして暑い。周囲からはパチパチと音が聞こえ、誰かが僕を揺り動かしている……でも、一体誰が? 「あたしじゃ運ぶの厳しいから‼︎ 肩くらいは貸してあげるけど、最初は立ってくれないと無理なの‼︎ 」  なんだか聞き覚えのある声だ。  煙の匂いが鼻に刺さる。息をするのが苦しいのは、どうやら傷のせいだけではないようだ。思わず大きく咳をして、喉から血を吐き出す。  視界に色が戻ってくると、赤や黒、橙の光がやけに目立つのが分かった。景色は先程と変わらない。ここはベルベットの屋敷。僕は移動していなかった。 「ほら急いで! 焼かれたくなかったら! 」  急かす声の方を向くと、そこにはアンジュがいた。  どうしてここに。何故僕達の場所が分かったのか。聞きたいことは山々だったが、周りの状況を見ると、それどころではないことに気付く。  屋敷が燃えている。豪華な装飾品や階段は火に包まれ、僕達のすぐ側まで迫っている。煙がもうもうと立ち込め、辛うじて出口に通じる道だけが残されていた。  体は痛むが、何故か首元の傷は塞がっていた。頭もふらつくし、とても万全の状態とは言えない。だけどすぐに動かないと焼け死んでしまうだろう。 「分かった。後で聞かせて! 」 「話せたらね! 」  アンジュが「こっち」と手招きする。  先生は、編集長と警部達は、ベルベットとアイオネルは。どうしてアンジュがここに来て、屋敷に火が付いているのか。聞きたいことは山ほどあったけれど、この時の僕にはそれを聞く余裕は無かった。  今思うと、この時全てをアンジュに詳しく聞いておけば良かった。  だけどこの時聞いていれば、恐らく炎に焼かれていただろう。は自分の命を犠牲にしてまでも、知っておくべき情報だったのだろうか。  ……いや、きっとそうだったのだ。
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