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「……何やってるんですか」
「残念だけど」なんて言われたから、良くても一人。悪くて全滅したかと思っていたら、連れて来られたのは店の二階、恐らくヤウの住処。
「遅かったね。悪いけど君の分はもう無いよ」
ぺろりと舌なめずりしながら、先生はこちらを見た。
一緒に座っているのは警部と編集長。それからヴァルツ号。彼らの前にはテーブルが置かれ、上には空になった皿が山積みになっている。
「こいつ、いつもこんなに喰ってるのか? いくら何でも常人じゃ……いや、あんたぁ常人じゃ無かったんだよな」
警部とヴァルツ号は、揃ってぽかんと口を開けている。
聞くと運びこまれた先生は、自らの再生能力で傷を粗方治すと「食事を用意してくれ」と頼み込んだらしい。
そこでアンジュが料理を、アランが代わりに支払いをして用意した一食分は、彼らの目の前で吸い込まれるように完食。もっともっとと頼まれるままに運んだ結果、テーブルの上は皿で完全に埋め尽くされてしまったそうだ。
「頼めば食事が出てくるってのはいいねぇ。ライカ君も何か食べるかい」
「簡単に言うんじゃねえ。アランのことだから、お前が食った分は全部請求されるぞ。ちゃんと払えるんだろうな」
「平気平気。後で払うから」
編集長の追求を軽くいなし、先生はふわぁと欠伸した。
「えっと、あれ全部でお幾らです……? 」
「はい」
僕に突き出された紙には、途方もない桁の数字。
先生の本を数千……いや、数万冊売ってようやく返せる金額。
「誰かが起きてたら止められたのにねぇ。編集長も警部さんも、ラピスより大分後に意識を取り戻したから……残念でした」
ニヤニヤしているアランと、満腹でご満悦な先生。
取り敢えず命があって良かったが、それとは別の問題が発生してしまった。
「ごめん、あたしも止めようと思ったんだけど……先生が切なそうに頼んでくるし、ぶっちゃけうちの売り上げにも繋がるからさ……」
「ま、皆が無事ならいいよ……」
一先ずはそれで納得するしかないようだ。
それより僕は、アンジュに聞いておきたいことがあった。
「教えてくれるかな。僕が気絶している間、何があったのか」
「……分かった」
アンジュは小さく息をすると、ゆっくりと口を開いた。
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