【6】解決と獣

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 燃える屋敷の中で、二つの影が倒れていた。  一つは大きな青い毛皮。もう一つは小柄な白い毛皮。赤い炎と黒い煙に包まれているのに、倒れ伏した二人はぴくりとも動かない。低い音を立てて家具が崩れ落ち、敷き詰められた絨毯も灰と化していく。 ーーあぁ。やっぱり駄目だった? ーー  黒煙の一つが小さな渦を巻き、次第に一つの塊となる。  その煙から声がしたかと思うと、倒れ伏す二人を静かに包んだ。 ーーまどろっこしいことしてないで、さっさと殺せばよかったのに。ベルベットを放っておけば、アイオネルは二、三人殺せたんじゃないの? ーー  声は二人を揶揄うように笑うと、形のない体を舞うように動かす。 ーーまぁ仕方ないか。君達がそんなこと出来ないのは知ってるし……うわ、銀の弾丸じゃん。これ嫌だなぁ。だけど死なれるのも困るなぁーー  そう言って、煙は二人の口から体内に入り込んだ。  ごうごうと炎が立ち込め、次第に建物を支えていた柱も崩れ始める。もはやどれが声を出していた煙なのか。その判別すらつかなくなった時、一気に炎が燃え上がり、天井、壁、窓……屋敷を構成するあらゆるものが赤に染まる。 ーーさぁ。『群れ』に帰ろうかーー  そんな声がどこかで響いた。  後に消防隊が炎を消し止め、屋敷に入った時。  中からは完全に焼け焦げた死体が複数、地下室から発見された。  もはや誰とも判別がつかないくらいの、あまりに酷い焼け具合。それと同時に、この屋敷に住んでいた伯爵と夫人に連絡が取れなくなったことから、警察や消防は「二人はこの火災で焼死した」と判断した。
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