【6】解決と獣

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 翌日。  三郎太の刺すような視線で目覚めた僕は、痛む体を起こして部屋から出た。  ヤウの店には上流階級の人々が集うから、昨晩のうちにロシャウドの屋敷が燃えた話は嫌と言うほど集まった。しかし最も語られた話題は、アイオネルとベルベットが焼死したということ。狼人間(ルー・ガルー)や僕達のことは、これと言って話には出て来なかった……先生の正体が割れなくて何よりだ。 「新聞は早いねえ。昨日のあれがもう一面だ。私の勇姿が載っていないのは不思議だけど」 「んなもん載せられてたまるか。アイオネルもベルベットも死んだんだから、お前の正体を知ってる奴は……」  編集長がそう言って、横目で警部を見た。 「おい待て。俺を口封じするつもりか」 「あんたは立場が立場だからなぁ……下手に手を出すと、殊更面倒なことになりそうだ」  朝っぱらから物騒な会話が繰り広げられている。 「それに君はヴァルツ号のご主人だからな。あの素敵な犬が悲しむようなことは、私もしたくない……おぉよしよし、可愛いねえ」  先生とヴァルツ号はすっかり仲良くなったようで、先生がわしわしすると嬉しそうに尻尾を振っている。同じと言っていいかは微妙だが、獣同士通ずる所はあるのだろう。 「あら、もう一人で立てますのん? 」  そこに来たのはヤウ。話している僕達を見渡すと、壁に立てかけてあった箒を手に取る。 「うちは一人で立てるようになったら治療終了って仕組みなんですわ。あんたらがいると余計な出費が増えますし。元気ならさっさと出て行って貰いましょ」  そう言って、埃を履くように箒を振る。  正直もう少し万全になってから出て行きたいが、仮にもここは高級香木店。病院でもないのに、だらだらと居座る訳にもいかない。 「まぁ三郎太の餌になってくれるなら、後二、三日は居て貰ってもいいんやけど……」 「お世話になりましたぁっ‼︎ 」  こうして僕達は、自分の身を守る為にヤウの店から飛び出し、帰宅するのであった。
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