【6】解決と獣

7/12
前へ
/132ページ
次へ
 ヤウの店から追い出され、先生は自分の家へ、僕達は出版社へ。  留守にしていた時間は僅かなのに、随分と長いこと空けていたような気もする。中は僕達が出た時のままで、いつもと変わらぬ平凡な様子……つい昨日までの血みどろの戦いが嘘のようだ。 「にしても助かったな。あの警察、物分かりが良くて」  編集長がコートを脱ぎながら呟いた。  帰る途中、警部は今回の事件のこと……犯人や被害者についてはさておき、僕達のことは話さないと約束してくれた。先生が事件に関与したことは警察内でも知られているようだが、あくまで「被害者として狙われ、屋敷に拘束されていた」という体で済ませるそうだ。 「にしてもいいのか? 一番活躍したの、あんたらじゃねぇか」 「名誉は既に持っているからね。怪物退治の英雄として伝えられるよりも、歴史に残る作家として知られたいのさ」  警部は協力者として僕達を表彰することも考えていたそうだが、それは先生にやんわりと断られた。確かに変に目立つと、今後の狼人間(ルー・ガルー)退治に支障も出る。僕としては少しくらいご褒美があってもいいかと思ったが、そこは先生の意見を優先することにした。 「アンジュにもお礼を言わないとですね。彼女がいなかったら、僕達……」  後で何か買って、店に届けに行こうか。  ああそうだ、まずはジャッケルさんの所に行って、事件について報告するのが先か。もう客が狙われることは無いだろうし、安全に運営が…… 「なぁライカ。それなんだがよ」  すると編集長がこちらを振り向いた。 「あの嬢ちゃん、よく俺達全員を助けられたなぁ。それもあの火事の中、大の男が三人もいたんだぜ? 随分と力持ちだなぁ……」 「そうですね。昔っから腕相撲して、アンジュに勝てたことありませんよ」  そうか、と頷く編集長。 「んじゃライカ。あの嬢ちゃんに、ロシャウド夫妻が犯人だってことも教えてたのか? 」 「いえ、そこまでは。怪しいなぁとは話したんですが……」 「そうか。あの嬢ちゃんは『犯人が誰か』までは知らねぇんだな」 「じゃ、ロシャウド夫妻だけを置き去りにしたのも偶然ってことか」  それが本当に偶然だったのか、この時の僕にはまだ分からなかった。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加