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「っはー‼︎ お肉美味しい‼︎ 」
通りの片隅。仕事帰りの大人がふらりと立ち寄るような屋台。
先生は吸い込むように焼き鳥を口に放りこみ、次から次へと注文していく。屋台のおっちゃんもいつになく慌ただしく手を動かし、僕は上がり続ける値段に怯えながらそれを眺める……少しは自重して欲しいものだ。
「やっぱ大量出血した後は肉だねぇ。身体中が血を求めてるよ」
「先生、一度に十本も注文するのは辞めてもらっていいですか」
「そうだな。せっかくの奢りなんだから二十本くらい頼んでもいいよな」
違うそうじゃない。
全身の傷は塞がっているように見えるが、体はまだ万全ではないのだろうか。食べるだけで治るのなら、それに越したことはないけれど。戦う度にこうなってしまうなら、僕も日々の出費を考え直さないといけない。
「……ジャッケルさんの言ってた『群れ』って何ですか? 」
「あぁあれか。知りたい? 」
知りたいと言われれば「はい」と答えたいが。
先生はすっと無表情になって、何を考えているんだか分からない顔でこちらを見つめている……聞いたとしても、まともに答えてくれる気はしない。
「知りたいって言ったら? 」
「厄介な奴らだよ。関わらないのが一番さ……って言っても、君の立場上難しいだろうね」
それだけ言って、先生はまた肉を貪り始めた。
「そのうち、嫌でも向こうから関わってくるさ。その時は……」
「その時は多分、私の最後だ」
肉を噛み切る音だけが、街の喧騒の中に溶けていった。
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