第七章 SPY

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そんなことを一人悶々と考えていると、突然、孝太郎さんに後ろからギュッと抱きしめられた。 「俺もまだまだだなあ。 あーちゃんが勘違いしたってことは、俺自身が頼りなくて疑われるだけの隙があるってことだもんな。 だから改めて誓うよ。 今までもこれからも、絶対俺はあーちゃん以外の人を好きになることなんてないし、あーちゃんを悲しませることなんて、絶対しないから。 あーちゃんに安心してもらえるように、もっとしっかりしなきゃね」 私の耳元で優しく囁く孝太郎さん。  それを聞いた私は、彼に対して自分自身も誠実でいなきゃいけないと思い直し、体を離して孝太郎さんに向き合うと、昨日駅で二人を見かけてから以降にあったことを、正直に話した。 もちろん、フテ酒して酔い潰れ、岸本さんや吉田さんのお世話になったことも。 それを聞いた孝太郎さんは、怒るでもなく、私の頭を優しく撫で、もう一度抱きしめてくれた。 「とにかく、昨夜あーちゃんが無事で良かった…」 私は、嬉しさと恥ずかしさと申し訳なさで頭がぐちゃぐちゃになってどうしようもなくなって、衝動的に彼の首に抱きついてキスをした。 「ちゃんと信じてあげられなくて、ごめんなさい。 これからは私も孝ちゃんのこと、ちゃんと信じる。 そして、孝ちゃんにずっと愛し続けてもらえるような奥さんになるよ」 彼の目を見つめながら改めてそんなことを言うと、恥ずかしさで顔から火が出そうになる。 「さ、さて、そろそろ式場に打ち合わせに行こっか」 照れ隠しで話題を変えようと、立ち上がりながらそう声をかけた。 でも何故か、私を見つめたままカウチから立ち上がらない孝太郎さん。 そして、握ったままだった私の手を引くと、無理やり私を自分の横に座らせた。 「あーちゃんが珍しく甘えてきたり、自分から積極的にオトナのキスをしたりするから…。 責任とってもらわなきゃ」 そう言いながら無言で自分の下半身に視線を移す孝太郎さん。 私もさっきからその変化に気づいてたけど、気づいてないフリして、見ないようにしてたのに、つられてうっかりそっちを見てしまう。 「ええーっ?まさか朝からするんですか…」 「いいじゃん、たまには」 「…んもう。仕方ないなあ」 この後、朝なのに無茶苦茶仲良くした。
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