第八章 三人の親

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「じゃあ、行こうか」 結婚式を翌週に控えた11月のある土曜日。 ハンドルを握ったまたしばらく固まっていたお父さんが、キーを回してエンジンをかけたあと、誰に向けてともなくポツリと呟いた。 後部座席に孝太郎さんと並んで座る私は、「お願いしまーす」と応えながら、私に応えて欲しかったんじゃないんだろうな…と感じていた。 お父さんが応えて欲しかったのは…、いや、もとい。お父さんが確認したかったのは多分、助手席に座るお母さんの意思。 “車を降りるんなら今だよ”と、言いたかったんじゃないか。 これから、我が家の両親と私、孝太郎さんの四人で、私の実の父である木田正太郎さんとそのお母さん…、私にとってはお婆ちゃんの所に、結婚報告に行くのだ。 ちなみに、弟の中学生の悠斗は部活があるらしく、一人で留守番することになっている。 木田さんとお母さんは、私が小学生低学年の頃に、木田さんの浮気を理由に離婚した。 木田さんもお父さんやお母さん、孝太郎さんと同じく帝産銀行の行員で、お母さんとは職場恋愛で結婚。 でも単身赴任してる間に赴任先に浮気相手を作り、木田さんは最終的にお母さんと私を捨てて、その人の元に行き、その人と結婚。 でもその結婚も上手くいかず、木田さんは程なくバツ2に。 その間にお母さんは、転勤していった職場で今のお父さんと出会い、すったもんだの末、私が小学六年生の時に再婚。 私にとって木田さんは、物心ついた頃から週末にしか会えない“お父さん”だったので、そんなに記憶としては残っていない。 思い出せるのは、まだ木田さんとお母さんが仲良かった頃、みんなでお出かけした時の楽しそうな木田さんの笑顔。 仲が悪くなってからは、それでも私の前ではそんな素振りを見せないようにしてくれてたお陰か、私の前でケンカしてたイメージはない。
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