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木田さんの住むのは私達の住む町の隣り町。
といっても、平成の大合併で私の地元も木田さんの住む町も周りの町とくっついて大きくなったせいで二つの町が隣り同士になっただけで、距離にして50キロほど離れている。
その木田さんの住む町の中心にある大きなホテルのエントランスに、お父さんの運転する車が到着した。
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「久しぶりにこの町に来たよ」
木田さんとお婆ちゃんとの待ち合わせの時間にまだ少し余裕があったので、最上階のラウンジに上がり、町を見下ろしながらお父さんが感慨深そうに呟いた。
この町には、お父さんとお母さんが30代の時、二人が初めて出会った帝産銀行西町支店がある。
そしてお父さんが最後支店長を務めたのもこの西町支店。
今はもう役職定年を迎えて関連会社に出向してるので、この町に来るのも、支店長を退任した時以来らしい。
私は定期的に、孝太郎さんは婚約後は私と一緒に、二人で木田さんのお見舞いに来てるので、私たちはそんなに久しぶりではないんだけど、お母さんはどうだろう。
私が高校卒業した時に、お母さんはお父さんに勧められて、私の卒業報告を兼ねて入院中の木田さんのお見舞いに行ってるから、その時にはこの町には来てるはず。
でもそれ以降木田さんのお見舞いに行ったって聞かないから、この町に来たのは、もしかしたらお見舞いの時以来かもしれない。
微妙な空気に包まれながら、皆が所在なく無言で展望デッキから街を見下ろしていると、私のスマホが鳴った。
木田のお婆ちゃんからだった。
「もしもし?お婆ちゃん?」
「あ、あーちゃんかい?
今ホテルの下に着いたよ。
もうあーちゃん達は来てる?」
「うん。さっき着いて今ホテルの上の階にいるよ。
今着いたのね?
じゃあロビーで待ってて。これからみんなで降りるから」
私は周りにいるお父さんやお母さんに聞こえるように、少し声を張りながらそう伝えた。
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