第八章 三人の親

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「あー、お婆ちゃん久しぶり」 ロビーに降りると、木田のお婆ちゃんと木田さんがソファーに座って待っていた。 木田さんはスーツ姿で手に杖を持っている。 お婆ちゃんは確か80歳を超えてるはずだけど、今でもバドミントン教室に通うほど矍鑠としている。 小柄だけど背筋もしゃんとして、髪も銀髪を少し紫に染めてるオシャレさんだ。 「あーちゃん、それに吉村さん、この度はおめでとう」 「わー、ありがとー」 立ち上がったお婆ちゃんは嬉しそうに私の手を取り、私も笑顔でそれに応じる。 一方、孝太郎さんは、木田さんにもお婆ちゃんにも何度か会ったことがあるはずなのに、なんだかぎこちない笑みを浮かべて、一歩後ろに突っ立っている。 座ったままの木田さんも、穏やかに笑っているけど、何やら緊張の面持ち。 そうか。 そうだよな。 木田さんとお母さんは、おそらくあのお見舞いの時以来、8年ぶり?9年ぶりの再会。   私と孝太郎さんのさらに一歩後ろで控えてるお父さんとお母さんも、振り返ってみることまではしないけど、多分緊張してるんだろう。 てことは、空気を読まずにはしゃいでるのは、どうやら私とお婆ちゃんだけみたいだ。 お婆ちゃんは、昔から豪快な人だった。 早くにご主人…、私のお爺ちゃん当たる人…を亡くし、木田さんと木田さんの妹さんを、女で一つで大学まで行かせた人だ。 木田さんとお母さんが離婚した時の様子は、私は小さかったからあまり覚えてないけど、木田のお婆ちゃんがお母さんの前で土下座をしてたのを、鮮明に覚えている。 もちろんその時の私は、その土下座の意味も、そしてその後、何故「お父さん=木田さん」やお婆ちゃんと会えなくなったのかも、しばらく分からないままだったけど。 ただお婆ちゃんは律儀で正直な性格なので、かつての嫁姑の関係だったお母さんも、お婆ちゃんにだけは早い段階で心を許してたみたい。 高校卒業時のお見舞いも、お母さんはまずお婆ちゃんに連絡したみたいだし。
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