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挨拶を済ませると、ホテル三階の小さな個室宴会場に移動することに。
今日のお昼は、木田さん達と私達が揃ってここで食事をすることになっている。
ただホテルが広くバリアフリーとはいえ、木田さんの足で歩くには少し遠いので、木田さんはホテルの人が用意してくれた車椅子に乗ることになった。
「さて、じゃあ正太郎、行こうか」
「待ってお婆ちゃん。私が押す」
いつものように木田さんのお世話をしようとするお婆ちゃんを制し、私が押すと申し出た。
「いいのかい?花嫁さんにそんなことさせて」
「いいのいいの。今日はまだ花嫁じゃないし、私なんだかんだ言っても、結局木田さんのお世話したことないんだ。今日くらい“親孝行”させてよ」
「そうかい。正太郎も喜ぶよ。
あ、そういえばあーちゃんはプロの介護士だった。まさかお世話は有料じゃないだろうね」
お婆ちゃんが笑わせると、黙ってやりとりを聞いていたみんなも笑った。
やっぱりお婆ちゃんはその辺の機微が凄い。
周りの空気が変わったもんね。
移動が始まると、お婆ちゃんは何故だか孝太郎さんの隣に立って、話しながら先に歩き始めた。
そして、何かを伝えるかのようにちらっとお父さんとお母さんを振り返った。
お婆ちゃんと目が合い、その意図を察したお父さんとお母さんも孝太郎さんに追いつき、彼の背中を押すかのように早足で歩き始めた。
「あーちゃんと木田さんは、ゆっくり来ればいいよ。私らは先に行って準備してるから」
お父さんは振り向きざまそう言うと、お母さんをエスコートしながら先に行ってしまった。
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