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残された私と木田さん。
確かに車椅子を押してると、歩くスピードは皆より遅くなる。
でも多分、お婆ちゃんもお父さん、お母さんは、歩くのが遅い私達を待つのが嫌だったとかそんなんじゃない。
私と木田さんが二人きりになれる時間を作ってくれたんだ。
「先に行って準備してるって、なんの準備だろうねー。全部ホテルの人がしてくれてるから、部屋に着いたら食べるだけなのにね」
「本当にありがたいことです…」
お婆ちゃんやお父さん達の配慮がくすぐったくて、つい天邪鬼にボヤいてしまったけど、木田さんはうっすら涙を浮かべながら、しみじみと呟いた。
泣いてる実の父と、並んで歩く花嫁。
今の私達は、車椅子に乗った父とそれを押す娘だけど、縦並びか横並びの違いはあれど、二人並んで歩いているのには変わりない。
「ふふっ。なんだか私達、ヴァージンロードを歩いてる父娘みたいだね」
「そんな父娘なんて、僕如きが烏滸がましいよ。しかも高橋部長より先に…」
木田さんは掠れた声で遠慮がちに応えた。
木田さんの言う高橋部長とはお父さんのこと。
今はお父さんは役職定年を迎えて関連会社に出向し、“なんちゃら”とかいう会社で、“なんとか部”の部長やってる。
といっても、凄い偉い人ってわけじゃなくて、その“なんとか部”には部長が何人もいるらしい。
銀行の関連会社の中でもお父さんが出向した会社は、支店長を務めた人等のそれなりの職歴を持った行員が出向していくので、出向者同士肩書で喧嘩にならないよう、いわゆる“部内部長”ばっかりだって、以前そういえばお父さんが言ってたっけ。
「ヴァージンロード歩くのがどっちが先かなんて気にしなくていいよ。私にとっては木田さんも“お父さん”だもん」
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