第八章 三人の親

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話は変わるけど、お婆ちゃん絡みで思い出したことがある。 私が小学校低学年で、まだお母さんと木田さんが離婚する前のこと。 木田さんが単身赴任中で、ワンオペ育児していたお母さん。 そのお母さんの負担を軽減するために、お婆ちゃんの誘いで、近くで一人暮らししてた木田のお婆ちゃんの家に、月に何度か泊まりに行ってた時期があった。 私も色々買ってくれるお婆ちゃんのところに泊まりたかったことを思い出した。 お婆ちゃんにはお婆ちゃんの思惑があったのかもしれないけど、お母さんも上手く割り切ってお婆ちゃんに甘えてたのかな。 その辺は話したことないからわかんないけど。 食後のデザートが出てきてそろそろお開きとなった頃。 それまでニコニコしてただけで沈黙を貫いていたお母さんが突然立ち上がり、木田さんの元に向かって歩き始めた。 何か覚悟を決めたかのように口を真一文字に結び、目はしっかりと木田さんを見据えている。 その様子に皆が一様に動作を止め、お母さんの真意を測ろうと目でその姿を追った。 お母さんは木田さんの横に立つと、反射的に立ち上がろうとした木田さんを優しく手で制し、自らが腰をかがめて、木田さんと目線を合わせた。 「正太郎さん。 今日はアリスと孝太郎さんのために来てくださって、ありがとうございます」 「そんな、こちらこそ…」 木田だけじゃなく、多分周りのみんながドキドキしながら、お母さんが発しようとする言葉に耳を傾ける。 もしかしたら、お父さんだけは話の内容を知ってるのかもしれないけど。 「私達が離婚した時はまだ7歳だったアリスも、26歳。離婚して20年近く経ちました。 …もうね。20年も経つと、貴方を二度と許せないと思ってた気持ちも、どこか行っちゃった。 でも、もう怒ってないかというと、そうではなくて、今でもあの時のことは、私の心の中に深い傷として残ったままです。 “怒ってないけど、怒ってる” なんだかうまく言えないけど、それが今の私の素直な気持ちです」 そこまで一気に語ったお母さんは、そこで言葉を区切り、にっこり笑ったあと、大きく深呼吸した。
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