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それまでずっと聞いていた木田さんは、お母さんに何か応えようとしたけど、お母さんは目で優しく制し、再び話し始めた。
「私の気持ちは自分でも上手く説明できないけど、再びアリスが貴方と会うようになってから、貴方がアリスのためにして下さったことについては、本当に感謝しています。
最初貴方と中学生になったアリスを会わせるのには、私は反対してたけど、今では会ってもらって良かったと思ってます。
私に反発して少し尖ってたアリスが今こうして優しくて立派な大人になったのは、主人のサポートだけでなく、貴方の支えがあったから。
今まで本当にありがとうございました」
そこでまた言葉を区切る。
えっ?何?
この後なんて言おうとしてるの?
お母さんが言葉を切って溜めたせいで、少しだけ部屋の緊張感が増した。
「そして、これからも、もう一人の父親として、引き続きアリスを見守ってやってください」
お母さんがそう言い終わる頃、いつの間にかお父さんも木田さんの車椅子の側に寄り添って、木田さんの手を握っていた。
「僕からもお願いします。これからもアリスのことを、もう一人の父として、よろしくお願いします」
「そ…そんな…。
アリスと優子さんを一度捨てた僕如きが…。
第一、浮気して出て行った男にこんな優しいこと言ってくれる元奥さんも、それを許してくれる旦那さんも聞いたことも見たこともない…」
「そんな夫婦なら、ここに居ますよ」
お父さんとお母さんは、そう言って木田さんに向けて優しく微笑んだ。
「ありがとう…、ありがとう…」
涙で声にならない木田さんの元に私も駆け寄ろうかと思ったけど、今はやめておこう。
木田さんと、お父さんとお母さん、三人がそれぞれ抱える葛藤を越えて、それでも私のために手を取り合おうとしてくれているんだ。
今は、黙ってありがたく受け止めていよう。
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