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「あーちゃん、もしかして、何か怒ってる?」
「へっ?」
「いや、眉間にすっごく皺を寄せて、怖い顔してるから」
気づけば、孝太郎さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「あ、大丈夫だよ。もう怒っては…ない」
「“もう”ってことは、やっぱりさっきまで怒ってたってことじゃん…。
あ、あーちゃんが怒ってるのって、もしかして…」
「怒ってないよ。ごめんごめん。ちょっと色々疲れただけ」
私は取り繕うように、乾いた笑顔を向けた。
「そっか。気づかなくてごめん。重たかったよね?スーツケース、やっぱり俺が持つよ」
そう言うと彼は、私の手からスーツケースのグリップハンドルを奪うと、それまで持っていた荷物を左手に持ち替え、右手でスーツケースを引っ張り始めた。
私は慌てて、彼の左手から自分が持てる分だけの荷物を自分の手に移し、彼の後ろを付いていった。
「ごめんね、あーちゃん。
俺、あーちゃんと夫婦になったって徐々に実感してきて、嬉しくなってさ。
色々舞い上がってたんだ」
「いいってば。私も舞い上がってたのは、同じだし」
今度は乾いた笑顔にならないよう、少しだけ明るい声で応える。
でも彼には私の気持ちは見透かされていたらしい。
「あーちゃん、やっぱり怒ってる。
やっぱり俺のせい? 俺が何か気に触ることした?」
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