第九章 知らぬは…

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「あーちゃん、もしかして、何か怒ってる?」 「へっ?」 「いや、眉間にすっごく皺を寄せて、怖い顔してるから」 気づけば、孝太郎さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。 「あ、大丈夫だよ。怒っては…ない」 「“もう”ってことは、やっぱりさっきまで怒ってたってことじゃん…。 あ、あーちゃんが怒ってるのって、もしかして…」 「怒ってないよ。ごめんごめん。ちょっと色々疲れただけ」 私は取り繕うように、乾いた笑顔を向けた。 「そっか。気づかなくてごめん。重たかったよね?スーツケース、やっぱり俺が持つよ」 そう言うと彼は、私の手からスーツケースのグリップハンドルを奪うと、それまで持っていた荷物を左手に持ち替え、右手でスーツケースを引っ張り始めた。 私は慌てて、彼の左手から自分が持てる分だけの荷物を自分の手に移し、彼の後ろを付いていった。 「ごめんね、あーちゃん。 俺、あーちゃんと夫婦になったって徐々に実感してきて、嬉しくなってさ。 色々舞い上がってたんだ」 「いいってば。私も舞い上がってたのは、同じだし」 今度は乾いた笑顔にならないよう、少しだけ明るい声で応える。 でも彼には私の気持ちは見透かされていたらしい。 「あーちゃん、やっぱり怒ってる。 やっぱり俺のせい? 俺が何か気に触ることした?」
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