第九章 知らぬは…

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「ううん、そんなんじゃない…」 彼に対して怒ってる訳じゃない。 ただ新婚旅行から帰国して、日常が近づいてくるにつれて、今まで見えてなかった現実的なところが目に入り始めて、それに戸惑ってるだけだ。 「もしかして、東京でどこか行きたいところがあった?  それとも和食じゃなくて中華が良かった?」 「もう!違うってば!」 「いいよ、あーちゃん無理しなくても。ごめん、気が付かなくて。 じゃあ、新幹線、少し遅らせてどこか行こうか? それとも何かガッツリしたもの食べる?   一、二時間くらいなら新幹線を遅くなっても大丈夫だから、あーちゃんのしたいことしようよ」 なにやら孝太郎さんの話は違う方向に行き始めた。 私は別にどこにも行きたいわけじゃなくて、疲れてるから単に成田からそのまま自宅に帰りたかっただけなのに。 義実家の皆さんに会うのも別にイヤじゃないけど、なにも今日じゃないだろ?ってだけで。 なんだかピントの外れた優しさを発揮して、頓珍漢なことを言い始めた孝太郎さんに、少しだけ意地悪したくなった。 「少しくらい遅くなってもいいってこと?じゃあ、私の希望は、新幹線!私が新幹線オタクだって知ってるよね? 帰りの新幹線は、東京から大阪まで、ずーっと“こだま”に乗って帰りたいな」 「はい?」 「いや、さっき、少しくらいなら遅くなってもいいって言ったよね?」 「遅い…ってそっちの意味じゃなかったんだけど…」
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