プロローグ

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そうそう。 なんでプロポーズを意識するようになったかというと、きっかけは、孝太郎さんが乗ってる車の後部座席に、結婚情報誌の『ゼクビィ』が置いてあったから。 ある週末のデートの時にその存在に気づいた私は、どんなリアクションするのが正解か分からず、それから2回ほどのデートでも、車に乗るたびに気が付かないフリをしていた。 彼も特にその『ゼクビィ』について触れるわけでもなく、お互いにスルーしたままだったんだけど、しばらく経ったある週末の土曜日のお昼前のこと。 週末を一緒に過ごすため私の地元にやって来た孝太郎さん。 彼の車に乗ろうとすると、後部座席に置かれた『ゼクビィ』が再び目に入った。 でも何か今までと違う。 よく見ると、最新号に入れ替わってる! その日は、今まで通り気づかないフリしてやり過ごしたんだけど、翌日の日曜日に孝太郎さんがついに行動に出た。 前の晩、近くの安いビジネスホテルに泊まっていた孝太郎さんが、日曜の朝私を迎えに自宅に来た際、なんとその『ゼクビィ』が、助手席に移動していた。 そして、私が乗ろうと助手席のドアを開けた瞬間、ワザとらしく「ごめん、これ片すね」とその『ゼクビィ』を手に取って後部座席に放り投げた。 ご丁寧に、私から表紙のロゴがちゃんと読めるように、向きを計算して。 流石にそこまでされたら私も無視はできないので、一応、今気付いたフリをする。 「あれ?『ゼクビィ』、どうしたの?」 「あ、お、これ?  ああ、昨夜アリスを降ろした後、こっちにいる銀行の同期と会って、遅い晩飯食ってだんだけど、そいつの忘れ物かな…」 「ふーん。そっか」 なんて嘘が下手クソなんだ。 昨日の朝から、その『ゼクビィ』、ずっと車の後部座席にありましたけど? なんなら、先月号はずっとずーっと、あなたの車の後部座席にありましたけど?
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