プロローグ

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ベッドの上でぼーっとしていても、このモヤモヤは晴れない。 反動をつけてベッドから起き上がった私は、再びスマホを手に取ると、メッセージアプリRINEのトーク画面を開いた。 ---誰かに聞いてもらいたい。相談したい。 職場の友達に相談しようかとも思ったけど、孝太郎さんのことを昔から知ってる友達の方が何かと話がしやすいかと思い、高校時代の友人の一人、中本歌恋(なかもとかれん)にメッセージを送った。 でも、しばらく待っていてもRINEの既読が付かない。 「あ、歌恋、今日は練習の日か…」 今日が木曜日だということを思い出す。 歌恋は東京の女子体育大学に進学して、昔からの夢だったチアリーディング部に入り、卒業後はオーディションに受かって、どこかの街のBリーグチームのチアリーダーをやってる。 土日の試合がホームゲームの場合、その試合に向けて、木曜日の夜は全体練習をしていると言っていたはずだ。 「仕方ないか。彼女も忙しそうだし」 お金の話なので詳しく聞いたことはないけど、歌恋の所属するチームのチアリーダーは“一試合いくら”の、いわば歩合制。 なのでチアリーダーの収入だけではやっていけず、普段はチームの本拠地にあるスポーツジムのインストラクターをしているらしい。 他のメンバーもみな仕事をしながらのチアなので、全体練習は必然的に夜になるんだと言っていた。 『それでも、子供の頃からの夢だから、いいんだ。好きで入った道だし、こんなこと若いうちしかできないし』 たしかにチアリーダーは、毎期入れ替わりがあり、エントリーできるのは27歳が上限らしい。 チアリーダーができるのも、あと数年。歌恋は歌恋で、楽しみながらも今を必死に生きている。 歌恋には電話できそうもないので、もう一人の高校時代からの友人、井上有紗(いのうえありさ)に『今、大丈夫?』と、RINEメッセージを送ってみる。 すると今度はすぐ『いいよ』と返信があったので、私はすぐ通話ボタンを押した。 「有紗、今大丈夫だった? 放送の邪魔じゃなかった?」 有紗は、縁もゆかりもない遠くの街のローカル民放局で、アナウンサーをしている。 彼女もまた、子供の頃からの夢を叶えた一人だ。 東京の有名私立大学を卒業後、彼女は、公共放送の地方局の契約キャスターとして、遠く離れた街で2年間頑張った。 契約が終われば、また就職活動だと思っていたら、契約キャスターとしての彼女のスキルと知名度を買ったその地元の民放局に、アナウンサーとして声がかかり、採用面接の結果、正式に採用された。 今や、その地方では、美人で聡明な人気局アナと評判で、時々全国放送のローカルニュースのリポーターとして見かけることもある。 有紗曰く、ゆくゆくはフリーアナウンサーになって、キー局で活躍したいらしい。 そのため、元々秀才だった彼女は、将来の選択肢を広げるために、今はアナウンサーとしての仕事の傍、気象予報士の資格取得に向けて勉強中のはず。 私の電話が、勉強のお邪魔じゃなかったらいいけど…。
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