プロローグ

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「大丈夫だよ。今日は夜のスポットニュース当番じゃないから、もう家に帰って、久しぶりに缶ビール飲んでる」 有紗は普段はローカル局の情報番組のサブキャスター兼リポーターがメインで、たまに夜9時前のスポットの天気予報のアナウンスを担当しているらしい。  私は、彼女が全国放送のリポーターとして取材してる映像は見たことあっても、まだ彼女がアナウンサーらしくニュースを読んでる姿を見たことがない。 いつか全国放送の系列局女子アナを集めた特番で、恥ずかしいNGシーンと共にその姿を拝みたいと思っている。 そんなこと有紗には言えないけど。 ------------------- 「てか、急に電話なんて珍しいね。なんかあった?」 「ん。まあ色々とモヤモヤしてて。誰かに話を聞いてもらいたかったというか…」 「何?彼氏とケンカでもしたの?」 「いや、ケンカ…って訳じゃなくて、どっちかって言うと、むしろ…、その…」 そこまで言って、なんだか急に恥ずかしくなる。 彼女と歌恋、私の三人は、高校時代を含めて、異性関係はお互いに全て把握している。 だから当然、有紗も孝太郎さんのことは知っているし、会ったこともある。 それだけに、『プロポーズされる“かも”』なんて、仮定の妄想で頭が沸いてるような質問が、急に恥ずかしくなった。 なんで有紗と歌恋が孝太郎さんのことを知っているかと言うと、元はといえば、私と有紗の間に起きた高校時代の一人の男の子を巡るトラブルをきっかけ。 そのトラブルの後、私と有紗の間での恋愛関係での隠し事はやめようという暗黙の了解ができ、それがいつの間にか、トラブルに関係なかった歌恋にも適用されて、今に至るという感じ。 ------------------- 高校時代、私と有紗の間に起きたトラブルには、実はもう一人登場人物がいる。 美香という同級生の女の子だ。 私と有紗、美香の三人で、同じ男の子を巡って起きたトラブル。 男の子が起こした二股ならぬ三股事件。 一番最後に彼女になった(はず)の美香が起こした“下克上”に、翻弄された私と有紗。 当時、表向きには私が、男の子(仮にCとしますか)Cのカノジョで、有紗はCの浮気相手。有紗は最初から私とCが付き合ってるのを知ってて、私からCを奪うつもりで、Cを一度は受け入れるた。 でも有紗は私への罪悪感に駆られてCと別れて、全てを私に打ち明け謝罪してくれた。 それから紆余曲折を経て最終的に私と有紗は和解したんだけど、Cが有紗と浮気したことを掴んだ三人目の“彼女”美香が、私と有紗が揉めてお互い自滅するように仕組んだのが、元々のトラブルの原因で…。 もちろん三人の女の子を振り回したその男の子Cが一番悪いわけで。 大人になった今となっては、美香も被害者だったんだとは思えるようになったけど、高校卒業したばかりのまだ“青い”私たちはそれを受け止めることができず、私も有紗も、美香を拒絶し、美香とは高校卒業以来会ってないどころか、連絡すら取ってないんだ。  
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