プロローグ

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プロローグ

見たことのない,不思議な形をした文字で書かれた不思議な手紙が届いた時、僕には,何となくわかった。これは,地球で使われている言語で書かれた手紙ではないと。 僕は,小学生の時から,言葉が好きで,中学生になるまでに、中国語,韓国語,ベトナム語,タイ語を独学で,習得し,母語のように操れるようになっていた。よく周りに,「とんでもない才能がある!」と褒められるものだった。 しかし,僕は,褒められたくて世界のいろんな言葉を勉強していたのではなく,「好きこそ,ものの上手なれ」の言葉の通り,好きだから,遊ぶ時間や睡眠時間を削ってまで,知りたいと思った。どんなに勉強し,深いところを知っても,自分の持っている知識は氷山の一角に過ぎない,言葉は自分が思っているより,もっと,もっと奥が深いと痛感させられるばかりだった。 おそらく,そう言うところに惚れたのだと思う。どんなに掘り下げて,奥を知っても,更に奥があると思うと,血がたぎり、やる気がみなぎる一方だった。 その僕は,中学生のうちに,英語,スペイン語,イタリア語,フランス語をマスターし,高校では,ラテン語やギリシャ語を勉強した。 大学で何を専攻するのか決めるときは,僕は少しも迷わずに,言語学を選んだ。言語学者になり,言語学で身を立てるつもりだった。 しかし,この作戦は、見事に失敗した。皮肉なことに,20歳になるまでに,15ヶ国語以上の世界の言語を思いのままに操れるようになっていた僕には,言語学の講義の内容は,ちんぷんかんぷんだった。様々な言語の文法やルールを覚え,真似するのが得意な僕だが,その言語というものの枠組みや理論が,全く理解出来なかった。 結局,卒業もできずに,中退したのだった。 しかし,その僕でも,わかったのだ。この手紙の文字は,現在地球上で使われている言語の文字ではないと。どの専門家を訪ねても,この文字を解読し,訳せる人は,今の時代なら,いないと。 だから,僕は未来へ旅をし,訳せる人を探すことにしたのだ。 宇宙と時間の不思議な働きのなんらかの手違いで,僕の元に届いた手紙をどうしても読んで,内容が知りたいと思ったのだ。そして,返事を書いてみたいと思ったのだ。 タイムトラベルは,可能になっているとは言え,膨大な資金がかかるため、いまだにほとんどの人には,縁のない話だ。 しかし,大学で思いもよらない挫折をし,自分を見失っていた僕は,この小さな夢を叶えるためなら,自分の貯金を全部使っても,どんなに時間を費やしても,構わないと思った。
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