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目的達成
語学好きな僕は,すぐにアノハさんの言語を勉強したくなったが,調べてみると,本屋さんはおろか,本自体はもはや作られていないようで,教材というものは,完全にオンライン化されているようだった。そこで,語学アプリがないか、調べてみたが,さすがに,この無関心な社会には,違う惑星の言葉が勉強したいと思うほど,他人に対して興味を持っている人はあまりいないようで,そのようなアプリは見つからなかった。
ガッカリしたが,アノハさんの言葉を覚えるのを諦めて,日本語で書いてから,翻訳ソフトを使って訳すことにした。
何を書いたら良いのか,色々考えながら,自分の手紙を何度も書き直した。ようやく,納得が行く内容が書けると,ふと困ったことに気付いた。手紙が書けても,訳せても,アノハさんに届ける方法がわからない。
とりあえず,郵便局に行ってみることにしました。郵便局の窓口業務の一部は,まだ直接窓口で対応することがあるらしい。
ところが,郵便局に行ってみると,僕を出迎えたのは,やっぱり,人間ではなく,ロボットだった。
アノハさんの住む惑星に手紙を送るのは可能かどうか訊いてみると,
「手数料はかかりますが,可能です。」
と言われた。ロボットは,僕の方を向いて対応してくれたが,ぼんやりと,どこか遠いところを見つめているような目つきで、僕とは,目が合わない。これも,また不思議だった。
さらに,過去に手紙を送るのは可能かどうか尋ねてみると,
「手数料はかかりますが,可能です。」
とロボットが朗読するように,また同じセリフを繰り返した。
ロボットに,自分の数年分の貯金を全て費やし未来に来て,自分の大事な想いを託した手紙を預けることになった。自分がここまで大事に思っている仕事をロボットに任せるのは,正直抵抗はあったが,それがこの時代のやり方だから,仕方がないと開き直った。
「絶対に,届けてください。とても大事な内容です。」
僕が手紙をロボットに渡すときに,念を押してみたが,ロボットは,無表情で,遠くを見つめ続けただけだった。僕を安心させるような言葉は,一言もかけてくれなかった。
僕は,手紙の配達をロボットにお願いした時点で,この世界での用は済んだから,すぐに自分の時代に戻ることにした。
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