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 それでもスープの素はあるので、野菜スープは作ることができた。一年余りの同棲で身についたのはにんじんの薄い切り方だったが、久しぶりに包丁を握ると意外にうまくいった。  野菜スープだけでは足りないので、残りは冷食でまかなった。唐揚げとほうれん草の煮浸し、キッシュ。いつだったか、バランスが偏っていると莉奈に不満を言われたこともあったような気がするが、今回の彼女は文句を言わなかった。  別れ話が出てからはあえて一緒の食卓を避けてきた。何も言わずに浩文は皿を並べ、スープは一人分を器に注いだ。 「風呂でも入ってきたら」  いつの頃からかそのようにしていた。入浴に時間のかかる莉奈は、そうする方が効率的だと嘯いて喧嘩になったこともある。 「良い、今食べる」  莉奈の返事は思いがけないものだった。そうして食卓で対面したが、まるで初めてそうしたように互いの目が見られない。 「別に無理して包丁を握らなくても良かったのに」  そう言いながら莉奈は左手でスープの器を取った。右手で箸を使えるものの、その動きはぎこちなさがあって、極力肩を動かさないように庇っているように見えた。 「俺は一人でも生きていけるからな」
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