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 緩やかな上り坂は高台の公園に続いている。浩文のマンションはその中腹にあって、デートスポットとして有名な公園からの眺望と駅までの近さが人気の物件だった。  家賃は決して安くないが、駅前の商店街は活気があって便利な店が多く暮らし向きに不満はない。残業の少ない職場だから、仕事中や帰り道に足りないものに気づいても商店街を通り抜けるまでに揃えることができる。休み前などは酒とつまみを好きなだけ買い込む楽しみも味わえて、故郷から離れた土地での暮らしを存分に謳歌していた。  インターホンに並んだ番号ボタンを一つ押したところでため息をついた浩文は、結局鍵を使ってドアを開いた。七階の部屋には住んで五年になる。その間周りでは多少の入れ替わりはあったようだが、挨拶を交わす程度の関係しか築けず、気がついたら表札の名前が変わったり消えていたりしていた。 「早かったのね」  感情の乏しい声で迎えた莉奈は、背中を向けて服をたたんでいた。一週間前よりもダンボールの数は増えており、部屋の中から着実に彼女の持ち物は減っている。代わりに増えていく空白が声を嫌な感じに響かせた。 「飯は?」
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