6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
警報を無視して遊んだ梅雨の公園も、見つからなかった蛍探しの夏休みも。
今はもう遠く山向こうに沈んで、後ろから追いかけてきた不毛な冬に居場所を奪われた。
艶やかな花は枯れ、木は葉を落とし、そして蛍はその光は散らされて。
何でもあるような、何もない世界がまた始まる。
「世界って、何重にも重なった水槽みたいですね」
線路脇に供えられた花を見下ろして、彼女は小さく溢した。
「学校なんて小さな水槽。その水槽を破った先には広い世界が幾つもあるのに」
それでも小さな世界に耐えきれず、9月1日に何人もの学生が自分を殺す。
「バカらしいですね」と泣きそうな顔で彼女は笑う。
「確かにそうだ。でも君は、そんな話をするために僕を呼んだのか?」
冬荒れの今日。僕たちは、二年の関係にそっと蓋をする。
小さな喧嘩の残した、小さな傷跡たち。その一つ一つが置いていった毒に堪えきれなかったから。僕たちはもう、一緒にいられない。
「死んだ人間のことなんて、どうでもいいじゃないか」
線路脇に手を合わせる彼女を横目に、僕は嘆息した。
電車が走り去る。レールが哭く。冷たい陽射しが嗤って、車窓の反射が僕らを幻惑する。
「好きだったんですよ」
その陽の反射の中で、彼女が泣いているように見えたのは幻影だったのだろうか。
離れてしまった僕には、もうどうでもいい。
「知ってたよ」
最初のコメントを投稿しよう!