冬舞う蛍がいるならば。(「あなた一人を」原案)

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 これはきっと、朱に染めた黒。朱色の恋に見せかけた、黒い感情。  ──朱染めの黒は恋なのか?  それはきっと、いや確実に、今の僕にはわからない。  僕は、その感情から逃げ続けていたのだろうか?  いつも何かを隠れ蓑にして、見たくないものに蓋をして、気になってまた少し覗いてみる。  結局はその繰り返しで、いつかは疲れて見向きもしなくなる。  「若かった」なんて安い言葉で額に飾って、褪せていくその感情と一緒に枯れていく。  ──なら、僕の若さって何のためにあったんだろう?  自分が臆病だからできなかったことに、中途半端なタイトルを付けて、額縁に飾って。腐らせて。  若い時には何もせず、歳を取ってから後悔し、縛られる。  ただ子供でいられなくなったから、仕方なく大人になる。  そんな亡命者みたいな大人になるのなら、僕が今まで若者である必要はあったのだろうか?  あり得た未来を想像して、下舌を叩いた。もう関係のないことだ。 『バイバイ蛍、お元気で』  だから、君に送ろう。  冬舞う蛍が贋作ならば。忘れられない贋作を。僕が最期に遺す、この小さな一つだけの光を。 『バイバイ』  お盆になったらまた会おう。
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