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引越しの後片付けが終わる頃には、すっかり夜になっていた。
僕は、部屋のカーテンを閉めようとしたのだが、カーテンは所々破れていて穴が開いている。
しかも、カーテンを完全に閉め切ることが出来ず、おまけに長さも短く、湿った臭いが染み付いていた。
こんな場所で暮らして行くことに、僕は不安と絶望感でいっぱいだった。
そんな時、ふと古く薄汚れた壁と柱の間に、わずかに隙間があるのに気付いた。
その隙間をよく見ると、何かノートらしきものが挟まっているのが見える。
前の住人か、そのまた前の住人のものかと思ったが、その時は、さほど気にも留めなかった。
食事はカップラーメンを食べて、あまり温かくならないザラザラしたお風呂に入り、ふとんを床に敷き、疲れた体をゴロンと横たえた。
しばらく、ボーッと今日の冴えない一日の出来事を思い出していると、先ほどの壁と柱の間に挟まっているノートのことがまた目に留まる。
僕は、そのノートが誰のものなのか、気になり始めていた。
「そうだ。ひょっとすると、箸でそのノートが取り出せるかも……」
先ほどカップラーメンを食べた割り箸で、その挟まっているノートを取ろうとした。
しかし、割り箸ではノートをこちら側へ引き抜くことは、なかなか出来ない。
「くそっ、出てこないな。割り箸では、ダメか……。あっ、そう言えば……」
そこで、実家から針金ハンガーを持って来ていることに気付き、それを細長く伸ばし、フック部分をノートに引っ掛けて取り出そうとした。
「もう少し……、よしっ! 行けるぞ……。と、取れた!」
取り出したノートは、かなり古いものだと一目で分かる。
買った時には、クリーム色の背景に、赤色のラインが入った綺麗なノートだったと思うが、色は変色し、湿気を吸って染みも所々ある、最近見かけないデザインの古いノートだ。
表には、綺麗な文字で『日記』と書かれていた。
人の日記なんて、見てはいけないと思ったが、この部屋には自分以外誰もいない。
だからこの日記を見たって、何の問題はないと、僕はそのノートの1ページ目を開いて見てみたんだ。
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