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その日記には、『昭和42年4月2日 日曜日』の日付から書かれていた。
僕は、日記の内容を見てしまうことに、少し罪悪感を憶えながらも、内容が気になりそれを読んでみた。
『今日は、この団地に引越してきたお祝いの日! とても綺麗で一人暮らしの私にはもったいないくらい!』
――という書き出しで始まっていた。
『明日から始まる初めてのお仕事にワクワクが押さえ切れない! 早く職場の人たちと仲良くなって、楽しく働くぞーっ!』
それは、今の僕とは全く正反対の気持ちが綴られている内容の日記だった。
文面から想像すると、この日記の持ち主は、僕と同じくらいの歳の女性じゃないかと思う。
『今日は、引越しのご褒美に、デザートのプリンを作って食べました! おいしかったーっ! プリン最高ーっ!』
その日記の内容から、とても前向きで明るい性格の女性だと思われた。
読み進めると、あまり大した内容のある話ではなかったが、その女性の性格や生活ぶりが如実に現れた中身だった。
僕はその1日目の日記を読み終えると、今日の引越しで疲れていたのか、知らない間に電気を点けたまま眠ってしまっていた。
――深夜になり、何か隣で人の気配を感じて目を開けると、そこには何と……、
『おばけ』がいた……。
「ぎゃぁーーーー!! お、お、おばけが出たぁーーーー!!」
僕は思わず、部屋の隅まで逃げると、その『おばけ』は透き通った体で、こう言う。
「そんなに、ビックリしないで」
「お、お、おばけがしゃ、しゃべったぁーーーー!!」
おばけって、しゃべれるんだっけ……?
「そんなに大きな声を出したら、ご近所さんに迷惑よ」
「な、な、何で……、ぼ、僕の部屋におばけが出るんだよぉ~……」
「うふふっ、だって、あなた私の日記を読んだでしょ?」
「え、えっ? に、日記……?」
このおばけは、妙なことを言う……。
「そう。そこにある日記」
「よ、読んだけど……、でも何で読んだらおばけが出るんだよ……」
「あなたが、壁の間に挟まっている私を助けてくれたから、ようやく外の世界へ出ることができたの」
「えっ? た、助けた……?」
全然、意味が分からない……。
「そう。あそこの狭い暗い壁の世界から、あなたが助けてくれたのよ」
「な、何だかよく分からないけど……。君は僕を殺そうとしたり、変な呪いとかかけちゃったりしない……?」
「そんなの、しないから安心して。むしろ、助けてもらったから恩返しをしたいくらいよ」
「お、恩返し……?」
「そう、恩返ししてあげる」
僕はそんな不思議な『おばけ』と、人生生まれて初めて、会話というものをしてしまった……。
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