60人が本棚に入れています
本棚に追加
【 第2話: おばけの希さん 】
その『おばけ』の年齢は、見た目から僕よりも年上じゃないかと思う。
髪は少し短めの明るいブラウン。
中肉中背に見えるけど、結構、胸は大きめ。
おばけだからか、瞳は、不思議とグレーがかっており、とても綺麗で透明感があり、吸い込まれそうな感覚になる。
僕は怯えながらも、恐る恐るその『おばけ』に、正体を聞いてみた。
「き、君は誰なの……?」
「私はその日記の持ち主よ。名前は『希(のぞみ)』。よろしくね」
「の、希さん……?」
「そう。あなたの名前は?」
「ぼ、僕は『友也(ともや)』……」
「『トモヤ』くんか。いい名前ね。歳はいくつ?」
「ぼ、僕は18歳……」
「若いのね。友也くんは」
ということは、このおばけ、僕よりもやはり年上なのか……?
「お、おばけ、じゃない……。の、希さんは、いくつ何ですか……?」
「私は30歳。友也くんよりも12歳年上ね」
「30……」
やっぱり、そうだった……。
「あっ、今、おばさんって思ったでしょ!?」
「い、いえ、思っていません……」
「まあ、しょうがないわね。18歳の友也くんからしたら、30歳の私はおばさんだもんね」
やばい……、僕の心を読めるおばけなのか……?
「そ、そんなことないですよ……。ほんと……」
「でも、ほんとは若い女性の方が好きなんでしょ?」
「まあ、確かにそうだけど……」
「このぉ~、レディを前に。ま、仕方ないか。それより、何か暗い顔してたけど、どうしたの?」
「えっ? そ、それは、ちょっと今日色々とあって……」
「色々って何よ?」
何でおばけなのに、そんなことを聞いてくるんだ……。
「このオンボロ団地の909号室だったり、茶碗を割ったり、指を切ったり、排水溝が詰まっちゃったり、カーテンが破れてたり……」
「まあ、確かに、私が住み始めた頃に比べたら、オンボロになっちゃったわね」
「トイレの便座も割れちゃってて、座ったらお尻の皮を挟んじゃったりもしました……」
「うふふっ、それはお気の毒。友也くんは面白いね」
「お、面白い……?」
「うん。そうやって、自分の不幸話をおばけの私にしてくるんだもん」
「だ、だって、希さんが色々と聞いてくるから……」
その『おばけ』は、僕に何か危害を加えるような怖いおばけではなさそうだった。
でも、その『おばけ』が時折見せる笑顔が、まだこの時の僕には信じられなかったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!