【 第2話: おばけの希さん 】

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【 第2話: おばけの希さん 】

 その『おばけ』の年齢は、見た目から僕よりも年上じゃないかと思う。  髪は少し短めの明るいブラウン。  中肉中背に見えるけど、結構、胸は大きめ。  おばけだからか、瞳は、不思議とグレーがかっており、とても綺麗で透明感があり、吸い込まれそうな感覚になる。  僕は(おび)えながらも、恐る恐るその『おばけ』に、正体を聞いてみた。 「き、君は誰なの……?」 「私はその日記の持ち主よ。名前は『希(のぞみ)』。よろしくね」 「の、希さん……?」 「そう。あなたの名前は?」 「ぼ、僕は『友也(ともや)』……」 「『トモヤ』くんか。いい名前ね。歳はいくつ?」 「ぼ、僕は18歳……」 「若いのね。友也くんは」  ということは、このおばけ、僕よりもやはり年上なのか……? 「お、おばけ、じゃない……。の、希さんは、いくつ何ですか……?」 「私は30歳。友也くんよりも12歳年上ね」 「30……」  やっぱり、そうだった……。 「あっ、今、おばさんって思ったでしょ!?」 「い、いえ、思っていません……」 「まあ、しょうがないわね。18歳の友也くんからしたら、30歳の私はおばさんだもんね」  やばい……、僕の心を読めるおばけなのか……? 「そ、そんなことないですよ……。ほんと……」 「でも、ほんとは若い女性の方が好きなんでしょ?」 「まあ、確かにそうだけど……」 「このぉ~、レディを前に。ま、仕方ないか。それより、何か暗い顔してたけど、どうしたの?」 「えっ? そ、それは、ちょっと今日色々とあって……」 「色々って何よ?」  何でおばけなのに、そんなことを聞いてくるんだ……。 「このオンボロ団地の909号室だったり、茶碗を割ったり、指を切ったり、排水溝が詰まっちゃったり、カーテンが破れてたり……」 「まあ、確かに、私が住み始めた頃に比べたら、オンボロになっちゃったわね」 「トイレの便座も割れちゃってて、座ったらお尻の皮を挟んじゃったりもしました……」 「うふふっ、それはお気の毒。友也くんは面白いね」 「お、面白い……?」 「うん。そうやって、自分の不幸話をおばけの私にしてくるんだもん」 「だ、だって、希さんが色々と聞いてくるから……」  その『おばけ』は、僕に何か危害を加えるような怖いおばけではなさそうだった。  でも、その『おばけ』が時折見せる笑顔が、まだこの時の僕には信じられなかったんだ。
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