【 第2話: おばけの希さん 】

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 僕は、通常のおばけの概念は持っているつもりだ……。  おばけと言えば、暗くなった夜に出てくるのが定番。  なのに、何故今、出てきてる……? 「お、おばけなのに、ど、どうして、朝にも出てくるの……?」 「私は朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、友也くんがそのノートを開けば、いつでも出てくるよ」  可笑しなことを言うおばけだ……。 「こ、このノートを開くと……?」 「そうよ。だから、今出てきたの」 「そ、そうだったんですね……」 「もう、二度目なんだから、そんなに驚かないで」 「は、はい……」  そのおばけ、いや、希さんは、昼間にも見える怖くない種類のおばけのようだ。  希さんの足元の方は、よくおばけで言われる通り、やはり薄くてよく見えない。  おばけの世界では、それがスタンダードなことなんだと理解した。 「さあ、友也くん。今日からお仕事なんでしょ? 早く支度して会社へ行かなきゃ」 「う、うん……」  僕は希さんに促されるまま、そのノートをかばんに入れ、重たい足取りで会社へ向かった。  すると、何故か、希さんが僕の背後に『ス~ッ』と付いてくる。 「の、希さん! みんなにおばけの姿見られちゃいますよ!」  僕がそう言うと、希さんは笑いながらこう返してきた。 「うふふふっ、大丈夫よ。私の姿は、友也くんにしか見えてないから」 「えっ? そうなんですか? ど、どうして?」 「そのかばんの中に入っているノートを見た人にしか、私は見えないから」 「そ、そうなんですね……。で、でも、声が他の人に聞こえちゃいます……」  僕はキョロキョロと、周りを気にする。 「それも大丈夫。声も友也くんだけにしか聞こえていないから」 「そ、そういうシステムなんですか……?」 「システムって、ちょっとよく分かんないけど、友也くんだけだから安心して」 「わ、分かりました……」  彼女は口元に手をやりながら、目を細めて僕に言う。 「ふふっ。あっ、でも、友也くんの声はみんなに聞こえているから気をつけてね。独り言ブツブツしゃべってるみたいになっちゃうから」 「は、はい。気をつけます……」  僕は希さんを肩越しに感じながら、バスに乗り、電車に乗り、会社へ向うのだった。
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