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僕は、通常のおばけの概念は持っているつもりだ……。
おばけと言えば、暗くなった夜に出てくるのが定番。
なのに、何故今、出てきてる……?
「お、おばけなのに、ど、どうして、朝にも出てくるの……?」
「私は朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、友也くんがそのノートを開けば、いつでも出てくるよ」
可笑しなことを言うおばけだ……。
「こ、このノートを開くと……?」
「そうよ。だから、今出てきたの」
「そ、そうだったんですね……」
「もう、二度目なんだから、そんなに驚かないで」
「は、はい……」
そのおばけ、いや、希さんは、昼間にも見える怖くない種類のおばけのようだ。
希さんの足元の方は、よくおばけで言われる通り、やはり薄くてよく見えない。
おばけの世界では、それがスタンダードなことなんだと理解した。
「さあ、友也くん。今日からお仕事なんでしょ? 早く支度して会社へ行かなきゃ」
「う、うん……」
僕は希さんに促されるまま、そのノートをかばんに入れ、重たい足取りで会社へ向かった。
すると、何故か、希さんが僕の背後に『ス~ッ』と付いてくる。
「の、希さん! みんなにおばけの姿見られちゃいますよ!」
僕がそう言うと、希さんは笑いながらこう返してきた。
「うふふふっ、大丈夫よ。私の姿は、友也くんにしか見えてないから」
「えっ? そうなんですか? ど、どうして?」
「そのかばんの中に入っているノートを見た人にしか、私は見えないから」
「そ、そうなんですね……。で、でも、声が他の人に聞こえちゃいます……」
僕はキョロキョロと、周りを気にする。
「それも大丈夫。声も友也くんだけにしか聞こえていないから」
「そ、そういうシステムなんですか……?」
「システムって、ちょっとよく分かんないけど、友也くんだけだから安心して」
「わ、分かりました……」
彼女は口元に手をやりながら、目を細めて僕に言う。
「ふふっ。あっ、でも、友也くんの声はみんなに聞こえているから気をつけてね。独り言ブツブツしゃべってるみたいになっちゃうから」
「は、はい。気をつけます……」
僕は希さんを肩越しに感じながら、バスに乗り、電車に乗り、会社へ向うのだった。
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