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燃えるように暑い真夏に契約満了で会社を退職した。
契約社員として三年ほど勤めたが、今回更新されないことは早くからわかっていたことだった。
新しい仕事はまだ決まっていない。少しの間休むのもいいかと思った。失業保険も出るし、ときに人生には休息が必要だ。
契約満了の場合、退職した約一週間後から失業保険が支給されるというが、契約満了での退職は初めてだったので急いでハローワークに行かねばならない。
いや、急ぐこともないのか。明日からはずっと休みみたいなものだった。
「次はどうするの?」
金曜日の夜に知華に誘われ、夕食を一緒にすることになった。二人でよく行っていた、会社近くの駅ビルに入っている雰囲気のあるイタリアンバーのようなお店だ。
知華は莉音が退職した会社で二年ほど一緒に働いた先輩だったが、契約満了とともに別会社の正社員として就職していた。
「決めてない。ちょっと休みたいなあと思って」
一緒に働いていたときも仲は悪くなかったが、知華の仕事が変わってからさらに仲良くなった。もう敬語も必要ない、と知華から提案してくれたくらいで、その申し入れがなければ未だに知華に対して敬語を使っていたと思う。当然、敬語じゃなくても敬意を忘れたことは一度もないが。
「それはいいと思うけど、間が空くとよくないよ。健康保険とか厚生年金とか会社からの補助がなくなるわけだからね」
至極当然のことを言ってのける知華が好きだった。
しっかり者を友人にもつと道が反れそうなときに助けてもらえる。その助けを振りほどいてまで別の道を歩みたいと思うときが来るのかもしれないが、今のところはない。正しい道へと必ず引き戻してくれるし、引き戻される。
「ハロワは?あと転職サイト。就活してないと失業保険ももらえないからね」
「わかってる。ハロワは行って手続きも終わってるし、転職サイトも三つくらい登録してる。でも面接の予定とかはまだ入ってないかな」
「あら、ちゃんと活動してたのね」
「一応ね。でも二、三ヶ月は働きたくないなあ……」
知華が目を見開く。
「長くない?貯金あるの?」
「それくらいなら」
「毎月の家賃も光熱費もバカになんないよ」
「少し前に引っ越したの。たぶん、契約だからいつ切られるかわからないし、節約にと思って」
「そうなの?」
「うん……」
莉音の目に覇気が感じられないことに、おやと思う知華。契約満了で仕事を辞めると連絡が来たときは、もののけが取れたように明るい様子だったのにも関わらず、だ。
仕事は好きだが、契約ではなく正社員になりたいと常日ごろから言っていた。知華が転職して正社員になったときも、祝ってくれると同時にとても羨ましがっていた。
しかし、転職する踏ん切りがつかないのも事実で、契約満了がいいきっかけになったと喜んでいたのだ。
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