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「知華さんはマンションだよね?私は、セキュリティも何もないアパートに引っ越したよ。しかも一階」
「うっそ、大丈夫?」
「まあ、安いと思えば我慢できるかな。壁薄くて隣の人の咳とか聞こえてくるし、二階の人がお風呂に入るとね、カタカタカタカタって天井からからくり屋敷みたいな音が聞こえくるの」
莉音は力なく微笑む。
「ホント、大丈夫?ヤバいじゃん」
知華は想像するだけでもぞっとした。夜さえまともに眠れる気がしない。
「家賃八万五千円から四万五千円になったと思えば平気だね」
「やっす!」
「しかもその値段でトイレとお風呂別だよ」
「マジ!?それはいいね。さすがアパートだなあ」
「古いし、駅から離れてるからね。でもちょっと気になることあるんだよなぁ……」
「今まで聞いた話も全部気になるけど」
「それは、慣れだよ」
はは、と乾いた笑いを浮かべる莉音。
「気になることって何?」
「あの部屋さ……」
「うん」
「座敷わらしがいるみたいなの」
「ん?」
最初は冗談を言っているのかと思って莉音を見るも、大真面目な顔は崩れることがなかった。
「……座敷わらし」
「座敷わらしって……あの?」
「そう、あの座敷わらし」
莉音から霊的な話を聞くのは初めてで戸惑いを隠せない。やはり何度莉音の顔を見ても嘘を言っている様子は微塵も感じられなかった。
「何で座敷わらしって思うの?莉音ってそういう霊感的なものもってたっけ?」
「ううん、初めてのことなんだけど。あのアパートに引っ越してからかな」
「まさか、事故物件借りた?」
「確かめてないけど違うと思う。そのアパート三部屋くらい空いてて全部同じような値段だったし。一階だから一番安かったけどね……」
ふーん、と知華は心配そうに莉音を見つめる。先ほどよりもさらに生気が抜けているようで余計に不安になった。魂の抜けた人形のようであり、蝉の抜け殻のようでもあって、何が彼女をそうさせているのかと考えるに、いくら考えてみてもその「座敷わらし」が怪しかった。
同じ会社で働いていたときはかわいい妹のように思っていたが、仕事面では頼りにしていた。二年間と短かったが、ともに働いた時間は知華にとってかけがえのない意味のある二年間だった。少なくとも莉音が再就職するまでは支えてあげたい。
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