きっと、あなたに、届くから

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 それからは毎日、ミイの写真を投稿するとコメントが付く、という事になった。基本的には毎日違う人からであったが、それでも毎回欠かさずコメントしてくれるのが、あの記念すべき初回コメントをくれた、同じくアビシニアン飼いの「にゃあご」さんだった。  初めはコメント上の返信でやり取りしていたのだが、毎日一言ふたことの交流をしている内になんとなく仲良くなり、やがて個人メッセージで猫以外の話もするようになった。とは言え、テレビの話とか、昨日食べた物とか、他愛のないどうでもいい話であったが。  相手が私の顔どころか年さえ知らない(個人情報だからと、裕也が相手に見えない設定にしてくれた)のをこれ幸いと、おそらく自分よりずいぶん若いであろう(こちらも年齢は伏せてあった)にゃあごさんとの、気軽な筆談を楽しんだ。  そんな感じで数週間過ごす内、会話のラリーも徐々に長くなり、やがて好きな本や映画の話をするようになった。すると二人とも太宰治のファンであるという事が判明し、それぞれが好きな作品について語り合うようになった。  そしてにゃあごさんもまた青森にある彼の生家「斜陽館」と「太宰治疎開の家(旧津島家新座敷)」を訪れた事があるそうで、置かれていた文机や疎開中にそこで執筆されたという作品など、当時のエピソードの話で大いに盛り上がった。  幅広い層に読まれている作家だという認識はあったが、見知らぬ人との交流に一役買ってくれるのだから、太宰治はやはり偉大である。  しかしあまりにも昔に読んだきりで内容が思い出せない物もあり、話しが噛み合わずにゃあごさんにガッカリされないよう、私は本屋で全集を買ってきた。思えばこうしてじっくり腰を据えて読書をするのも久しぶりの事だ。そして老眼鏡が合わなくなっている事にも気付く。私はついでに眼鏡も新調した。
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