きっと、あなたに、届くから

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 妻が、死んだ。  まだ60歳という若さだった。自分より7つも下の、しかも出不精の自分と違って多趣味で活動的、友人もたくさんいて毎日、活き活きと楽しそうに暮らしていた妻が。まさか自分より先に死ぬなんて。思ってもみない事だった。  病が判明した時、同時に余命を宣告された。ステージ4のガン、余命は3ヶ月。手術をして上手くいったかに思えたが、2週間後容態が急変。そこからは、あっという間だった。言い渡された余命よりは、2ヶ月多く生きた。が、たったそれだけだった。  葬儀のために実家に帰ってきていた娘夫婦と孫が、新幹線で5時間離れた自宅に戻ると、私は妻と暮らしていた広い家にぽつんと一人になった。  朝は、ニャーニャーいいながら朝ごはんの催促にやってくる、飼い猫のミイに起こされた。病気になる前は、早起きだった妻が餌をやっていたから、そんな事はなかったのだが。しかし寝ぼけている私は思わず、 「おーい、ミイが腹減ったって鳴いてるぞ」と声を出す。そして気付く。  そうだ。妻はもう、どこにもいないのだ。  クローゼットにかけられた、妻のお気に入りだった薄紫色のワンピース。食卓の上に置かれたままの、妻が読んでいたインテリア雑誌。妻が毎朝コーヒーを飲んでいた、猫の絵のマグカップ。洗面所のラックに入った、妻が髪をとかしたピンク色のブラシ。……。  それらすべてが、「妻の永遠の不在」を立証するかのように、異様な存在感をもって私に訴えかけてくる。私は私のやり場を失い、ただただぼんやりと、目の前に常に(もや)がかかったような心持ちで、時間をやり過ごすしかなかった。 「お父さん、最近どう? ちゃんと食べてるの、散歩とかしてる? ミイは元気?」
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