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「良ちゃん、今日のご飯、多かった?」
「え? なんで?」
「残ってたから」
「うーん。ムリはしなくていいよって言われるから」
「誰に?」
「おとうさんとおかあさん」
佐代子はコップにお茶を半分注いで手渡した。「もうないの?」と良太が聞いてくるので、八分目までいれてやる。
その場でお茶を飲み「ありがとう!」と言って返されたコップには、まだお茶が残っている──。
「良ちゃんあのね」
佐代子は去ろうとする良太の背中に呼びかけた。風呂上がりのさっぱりした顔が、ニカッと微笑みながら振り返る。
心が痛む。うるさいお婆ちゃんって思われないだろうか。
そう思いながらも、使命感と責任感を感じる。大事な孫のためだ。
「良ちゃん、おばあちゃん、お茶を半分しか……」
「うん」
しかし、これはよく考えれば清美の教育。自分が出る幕ではない。そんな思いが佐代子の口を止めた。それよりも、今は和也と吾郎の衝突を避けなくてはならない。
そのためには――。
「ううん、なんでもない。あ、良ちゃん。あのね、お醤油を箸につけて」
「チュチュチュってやるの?」
「え?」
「おとうさんに言われたよ。きをつけなさいって」
その瞬間、佐代子の中で、なにかがプツンと音を立てた。
「良ちゃん、さっきおばあちゃん、お茶を半分しかいれなかったの、なんでかわかる?」
「え?」
いつもの穏やかな表情が険しくなっているのを感じ、良太は思わず返事をした。
「ううん……。わかりません」
「良ちゃん」
「はい……」
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