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「最近、二重跳びができるようになったんだってね!」
そう言って佐代子は良太の頭を撫でた。うれしそうに返事をする良太を前に、佐代子は霧が晴れていくように笑顔になっていった。
──些細なことじゃないの。ましてや子ども。なんでもかんでも注意されたらストレスになりますからね。
「お茶がどうしたの? おばあちゃん」
「うん、やっぱりなんでもないの。それより、お友達もたくさんできた?」
「うん。浩太くんと健二くんと美香ちゃん。浩太くんは弟がいて、おとうさんはコックさんで、ホテルではたらいてて。健二くんはお母さんがおべんとう屋さんで……」
「……うん」
「みんなでおにごっこしてあそぶよ」
「……あら、そうなの。あんまり走り回って、お怪我でもしたら大変。気をつけるのよ」
「うん。わかった! おやすみ」
続いて風呂上がりの和也がお茶を取りにきた。思わず口から言葉が出そうになるのを抑える。
佐代子は気持ちを誤魔化すように、無言で洗い物の続きをはじめた。
三角コーナーに目が留まる。洗ったコップを濯ぐと、消えたはずの苛立ちが込み上げてくる。
箸、皿、コップ。泡立った食器にお湯をかけると、悪い癖が洗い流されて、排水口へと吸い込まれていくようだった。
──あ。
和也が洗いたてのコップに手を伸ばした。冷蔵庫を開け、お茶を注いでいく。
さっき捨てた残りでも飲ませてやろうか。そんな気持ちが込み上げてくる。
和也はお茶を一口飲むと、佐代子の方を見た。
視線を感じながらも、佐代子は洗い物を続けた。
もう一口、お茶を飲むと和也は口を開いた。
「お母さん、あの……。ちょっとお話が。お父さんのことなんですが」
和也の声に洗い物の手を止めず、佐代子は顔だけ向けて、疑問を顔に浮かべた。
まさか、今ここで?
そんな思いに胸がざわつく。
和也は言った。
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