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吾郎は昼休憩の時間は机に弁当を置いて、読みかけの本を片手に食事をする。最近は娘の清美が作ってくれることもある。
幼い頃、小さな手を握って歩いた散歩道。その大きくなった手が作り出すお弁当。それはおいしいに決まっている。
とんなおかずでも──。
そう思いながら、吾郎はサンドイッチを口にした。
パリパリと斎藤のくれたキュウリが口の中で音を立てる。
ミニコロッケ。
スクランブルエッグ。
隅っこに添えられたスパゲッティ。
佐代子が水筒に入れた暖かい日本茶を飲むと、異国の文化が混ざりあう。
吾郎は笑った。
向かいの女性社員もサンドイッチを食べている。清美と同じくらいの女性だ。
──幸せなことだ。自分は恵まれている。和也もまっすぐで正直な男。娘も帰ってきて、孫にも毎日会える。
吾郎は本を片手に食事を済ませると、携帯電話にメールが届いているのに気がついた。
それを見て吾郎は微笑んだ。もうすぐ誕生日だ。それにあわせて、もう一人の娘が帰ってくる。孫と旦那はお留守番らしいが、それでもうれしい。久しぶりの再会だ。
静香が帰ってくる。おてんば娘の静香だ。
これは賑やかになりそうだ。
吾郎は日本茶を飲むと、白い息を浮かべた。
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