吾郎のモヤモヤ

2/2
前へ
/33ページ
次へ
 吾郎は昼休憩の時間は机に弁当を置いて、読みかけの本を片手に食事をする。最近は娘の清美が作ってくれることもある。  幼い頃、小さな手を握って歩いた散歩道。その大きくなった手が作り出すお弁当。それはおいしいに決まっている。  とんなおかずでも──。  そう思いながら、吾郎はサンドイッチを口にした。  パリパリと斎藤のくれたキュウリが口の中で音を立てる。  ミニコロッケ。  スクランブルエッグ。  隅っこに添えられたスパゲッティ。  佐代子が水筒に入れた暖かい日本茶を飲むと、異国の文化が混ざりあう。  吾郎は笑った。  向かいの女性社員もサンドイッチを食べている。清美と同じくらいの女性だ。 ──幸せなことだ。自分は恵まれている。和也もまっすぐで正直な男。娘も帰ってきて、孫にも毎日会える。  吾郎は本を片手に食事を済ませると、携帯電話にメールが届いているのに気がついた。  それを見て吾郎は微笑んだ。もうすぐ誕生日だ。それにあわせて、もう一人の娘が帰ってくる。孫と旦那はお留守番らしいが、それでもうれしい。久しぶりの再会だ。  静香が帰ってくる。おてんば娘の静香だ。  これは賑やかになりそうだ。  吾郎は日本茶を飲むと、白い息を浮かべた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加