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「うん? 良太、どうしたんだ?」
「だから、おじいちゃん、タレを」
「良太!」
食卓に声が響いた。
しかし大きい声ではあるが、怒気は含んでいない。注意ではなく、呼びかけるような優しくて柔らかな声。
「ほっぺにご飯がついてるぞ」
声の持ち主は和也だった。優しい目をした和也が良太の頬を指差した。
思いもよらない展開に、佐代子と清美は目を疑った。
「タレがどうしたんだ?」
「あなた!」
今度は佐代子が声を張り上げた。
「そういえば、今週末、静香が帰ってくるって。聞きました?」
「あー、聞いてるぞ。静香の旦那の、あの埼玉出身の正樹君と息子の健一郎くんは、たしか六歳で剣玉が好きらしいな。二人はお留守番で、静香は一人で帰ってくるんだろ? 今時珍しいな、剣玉」
佐代子は見逃さなかった。
──良ちゃんの頬に、米粒はついていない。
一体どういう風の吹き回しかと、和也を見ると、涼しい顔で食事をしている。
清美の表情は複雑な気持ちを前面に押し出している。
佐代子は困惑した。和也の考えがわからず、どうしたいのか、さっぱりだった。
しかし、その一連の空気の流れを目一杯感じている者がいた。
吾郎に注意をした、良太だ。なにかとんでもないことを言ってしまったのではないかと、その表情は暗い。
米粒のない頬をさすりながら、不安げな表情を浮かべている。
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