夫婦のモヤモヤ

2/7
前へ
/33ページ
次へ
「そのくらい、我慢してよ」 「なんで?」 「もう癖で治らないのよ」 「……マナーだろ?」 「え?」 「清美はさ、俺の箸の持ち方に文句言ってきたくせに、そこは見過ごしちゃうの? 俺は笑うときに手をたたく癖も、直したじゃん」  二人の間に気まずい空気が流れる。最近はいつもこれだ。心なしか和也の運転が乱暴になった気がして、清美は小さくため息をついた。  ここ数日、少しずつこの話題も熱を帯びてきている。  清美は最悪の事態を思い浮かべ、頭を抱えていた。和也はこういうとき、本当に面と向かって言ってしまうことがあるからだ。  ダメだと思うこと。おかしいと思うこと。それを隠さずに相手に言ってしまう。  和也自身は「本人のためだ。嫌われるのは覚悟のうえだ」と、言い切っている。  それは清美の目には、言わなくてはならないという使命感に駆られているようにも見えていた。  その性格でどれだけ人を傷つけてきたのだろうか。そんなことが頭を巡る。  しかし清美がそこに惚れたのも事実だ。  相手のことを心から思うからこその行動は、ときに男らしく、カッコよく見えていた。言った本人の和也がそれにより相手の反感を買って、傷つく姿を見たこともある。  まっすぐで嘘をつかない男に、寄り添ってあげたくなった。この人には私が必要とさえ思っている。  清美の父である吾郎の二つの悪い癖は、和也の中で消化不良となり、モヤモヤした気持ちを抱えさせていた。  清美も同じくどうしようもない現状に、不安と苛立ちを感じていた。  今回も、清美がなんとか和也の心のブレーキを踏んでいる状態だ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加