28人が本棚に入れています
本棚に追加
ピチャピチャピチャピチャ……ピャッ、ピャ!
食卓に不快な音が響き渡った。
ピチャ! ピチャピチャピチャピチャ……。
今日は回数が多い。
それもそのはず、今日の晩御飯のおかずは、刺し身と豆腐、餃子に味噌汁。和也にとっては不幸なことに、不快音を奏でるのに最適な料理が三種類もあった。
和也は吾郎をなるべく見ないようにしていたが、耳を塞いで食事をすることはできない。箸を持つ手に力がこもる。苦労して正しい持ち方を習得した。
──なんで俺だけ? 不公平だ。
そう思えば思うだけ、不快感が増してくる。
清美の視線を感じる。チラッと見ると、目を逸らされた。
和也にとって義理の母、佐代子を見る。味噌汁をすすっていた。
その隣、息子の良太を見る──。
その瞬間、和也は思わず箸で掴んだ刺し身を落としてしまった。マグロの切り身が、ペタッと音を立てた。
良太が箸の先端に醤油をつけて、口に運び、チュチュチュっと音を立てた。かわいらしい音ではあるが、それは紛れもなく吾郎の真似事だった。
──なんてことだ……。
和也はそれを見て固まってしまった。慌てて清美が「ちょっと、お刺し身落ちてるよ!」と声をかける。
「ああ……ごめん」
しかし和也のその声に被せるように吾郎が話しはじめた。
「来週の土曜日に部下の斎藤、そいつはよく喫煙所で一緒になるのだが、東北出身の優秀な男で、実家は農家だ。こないだも野菜を持ってきてくれてな。こないだ持って帰ったトマトも、そいつにもらったんだぞ。奥さんは取引先の社員さんだ。そいつと釣りに行くことになった」
最初のコメントを投稿しよう!