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「おじいちゃん、釣りって楽しいの?」
「あぁ、楽しいぞ。良太も行ってみるか?」
「え! いいの? 僕もできるかな?」
「ああ、もちろん。おじいちゃんが教えてあげるからな」
──冗談じゃない。
和也は二人の会話を聞いて苛立った。悪い癖というのは、人から人へと伝染するものもある。今回の良太がまさにそれだ。手遅れになる前に手を打たなければと、焦燥感に駆られた。
同時に今まで指摘してきた悪い癖の数々が、頭を巡る。
歌詞を間違えたまま覚えて歌い続ける女子。
周りの作り笑いに気づかない男。
不倫とわかっていて恋を続ける女。
借金をしてまでギャンブルを続ける親友。
詐欺まがいの高額商品にすがる奴。
無駄に話が長い営業マン。
タバコを毎回せがむ同僚。
スキンシップが激しいあの人。
酒に溺れたあいつ。
人の悪口をでっちあげる、あの野郎。
新人いじめが生き甲斐の、あの上司……。
数え上げればきりがない。全部悪い癖、悪しき習慣だ。直した方がいい。自分のためじゃない、本人のためだ。
そう思って今までも本当のこと、正しいことを真正面から相手に伝えてきた。
感謝されたこともある。愚かさに気づき、それを改善した者にはきっと、幸せな未来が待っている──。
もう限界だ。言うしかない。
和也は箸を止めた。
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