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「良太。おまえは今日、醤油を箸につけて、それを舐めてな。チュチュチュってやったんだ」
「だから、ぼくやってないよ!」
「良太!」
風呂場に声が響き渡った。
「おまえは気づいてないだろうけど、こうやって、チュチュチュって音を立てて、醤油の香りを楽しんだ」
和也は唇を尖らせてチュチュチュっと再び音を立てた。
「かおり? おしょうゆの?」
「……まぁ、目的は何でもいいんだ。おまえさ、お父さんがこうやって、チュッチュチュッチュ音を立てるの、どう思う?」
「うーん……きもちわるい!」
「良太!」
和也は良太の華奢な両肩を掴み、静かに言葉を紡いだ。
「だから、お前もその気持ち悪いことをしてるんだ。お友達が見たら、みんな気持ち悪いって言ってくるぞ? それでいいのか?」
「だからぼく、そんなこと……」
「やってるんだよ! こういうのをな、悪い癖って言うんだ」
「……はい。ごめんなさい」
「今後、気をつけるんだぞ」
和也の真剣な表情に、良太の口から敬語が出た。これは良い傾向にあると、和也は口元を緩ませた。
真剣な話の時は、良い返事をするようにと教えてある。良太の返事を聞く限り、事態の重さを理解したと判断した。
ここからは、飴と鞭の、飴の時間。傷ついた心のケアとフォロータイムだ。
学校で誰と仲が良いのか。なにをして遊んでいるのか。良太にそんなことを聞いてみた。
「えっとね、よくあそぶのは、田中くん。えっと……妹がいて。スイミングにかよってるんだって。来年から、いちねんせいだよ。おにごっこかなぁ」
「……そうか。それは良かった。今度家に遊びにおいでって言っときな」
「いいの?」
「もちろんだ。それと良太、この話はおじいちゃんには内緒だぞ、いいな?」
和也は良太の頭を優しく撫でた。
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