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佐代子のモヤモヤ
食事のあとの台所は、佐代子にとっては戦場だ。
家族が自分の料理を食べている姿を見ることは幸せだ。しかし、そのあとの洗い物。五人分の茶碗、皿、余った料理。それを片付けるまでが料理だと思っている。
「別に、それが嫌なわけではないんですけどね」
独り言をつぶやき、皿を見る。
大きな皿に、二切れだけ残った餃子。
サラダの皿にコロンと転がる、二つのミニトマト。一枚のレタス。
醤油が大量に残った、小皿。
絞り出した形のままのマヨネーズ。
吾郎と二人のときは、一人前ずつ盛っていた料理。それが大人数になってから、大皿に盛るようになった。調味料も好きなものを選んで使えるように種類を増やして並べている。
──どういう教育をしているのでしょうか。
同居するようになってから始まった、料理の後始末。良太の茶碗を見れば、刺し身を乗せたであろう白米が、醤油を含んだまま、一口分残っている。
ちょっと多かったかもしれませんね。
そんなことを思いながら、次はお茶が半分残った和也のコップを見る。
このくらい、飲めないのかしらね。
そんなことを思いながら、次は娘の清美の味噌汁の底にペタッと張りついた人参を見る。
煮込みが足りなかったかしらね。
そんなことを思いながら、三角コーナーにそれらを捨てる。
吾郎の箸を洗いながら思い浮かべるのは、あの不快音だ。ずっと、ずっと我慢してきた、雨音が滴るような音。赤子をあやす方法を知らない男性がやりがちな、舌を鳴らす音。
──もう、間一髪でしたね。
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