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佐代子は和也の様子がおかしいことには気づいていた。娘の清美から密かに聞いていた性格を頭の片隅に置いて生活している。
正義感が強い。曲がったことが嫌い。言わずにはいられない。
たとえそれが、言われた相手にとってショックなことであっても。
佐代子思い返していた。
先日、同居をはじめてからちょうど一ヶ月目の夕食時、孫の良太が箸に醤油をつけて、チュチュチュっと音を立てた。
──嫌な予感がします。
そう思った瞬間、咄嗟に言葉が出た。おそらくはギリギリのタイミング。
でも、安心はできない。おそらく、次はない。
なんとかしなければならない。今まで夫に指摘しなかった自分の責任──。
しかし、今になって、なにをどう伝えればいいのだろう。癖は難しい。一度言ったからには、言い続けなければならない。
夫は、優しく家族思いだ。
同居も、娘家族のことを思っての提案。今の若い世代の給料は、自分たちの頃とは違うと言っている。
若者に対しての理解も深い。
会社でもきっと、慕われている。
よく部下の話をしてくれる。
それに、生活費も──。
「その分、貯金しろ。思い出作りに使いなさい」
そう言ってリフォームまでして迎え入れた懐の大きさ。それを思うと、些細な癖を指摘することなんてできない。いずれ慣れることだ。
事実、自分も我慢できた。それを上回る優しさがある。
──伝えなくてはなりません。和也さんが思い切る前に。
「おばあちゃん、お茶、いれてー」
そこへ、風呂上がりの良太がやってきた。
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