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第3話 会長が現れた!
「おはよーございまーす!」
女子社員は元気そうな私に挨拶も返せずに驚いていた。
あ、もしかして、無視されてたのかな。
まあ、いいや。
今日は機嫌がいい!
なぜなら、昨晩、ゲームフィールドをうろうろしていたら、レアな敵に遭遇したのだ。
弟を呼んで一緒に倒したら、アイテムをドロップしてくれた。
欲しかった装備が手に入ったのは大収穫でテンションあがりまくりよ!
いやー。これはもう日頃の行いですねー。
今日、帰ったら装備して色々試すんだっ!
ウキウキと秘書室に入り、制服に着替えるとお湯を沸かした。
「おはよう、有里さん」
「社長。おはようございます」
八木沢社長は今日も爽やかだなぁ。
「機嫌がいいですね」
「あ、わかります?欲しかったものが手に入ったんですよー」
「へえー?有里さんが欲しいものってなんだったんですか?」
「(超レアな)イヤリングなんですよ。つけてるだけで、もー、羨望のまなざしっていうか」
「そんな素敵なイヤリングがあるんですね」
あるんですよ。
うんうん、とうなずいた。
バババッと今日使う資料を並べていると、お湯が沸いたので声をかけた。
「社長、なにか飲まれますか?」
「ああ。それじゃあ、コーヒーで」
「はい」
朝だから、濃い目のコーヒーをいれ、持っていった。
秘書っぽい!
私は今、秘書という職業をしている!
にこにこと笑顔で机にコーヒーを置いた。
「ありがとう」
「いいえ」
ちゃんとお礼を言ってくれるところは好印象だった。
今のところ、一緒に仕事をしている限りでは嫌な所はない。
定時に帰してくれるし。
神様かな?
なんで、今までの人は辞めたのかな。
それが不思議でならない。
パソコンの電源を入れて、メールチェックした。
送られた社内メールに嫌がらせメールらしきものが入っていた。
ブスとか、淫乱とか。
あー、そういう。
証拠を残しておこう。
ファイルに入れて、さらにUSBにもコピーした。
あの顔だもんね。
そりゃ、モテますわ。
この程度の悪口で私が動じると思ったら大間違い。
レア装備を身につけていると変なのに絡まれること多いしね。
気にしていたら身が持ちませんって。
「有里さん」
「はい」
「お客様がいらっしゃったようだから、社長室に案内してもらえるかな?」
「わかりました」
一階までエレベーターで降りると、お客様であろう着物姿のおじいさんが待っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「この会社は年寄りに椅子もすすめんのか!」
「は!?」
ロビーには椅子もソファーも用意されてるのに。
受付の若い子達は知らん顔をしていた。
こ、こいつ。
私が怒られるとわかっていたな!
「失礼しました。以後、気を付けます。よろしければ、手をお貸ししましょうか」
「いるか!年より扱いするな」
「さっき年寄りって言ったじゃないですか」
「む!」
「社長がお会いするのを楽しみにしていましたよ。どうぞ」
「なかなか、腹の据わった秘書だ」
「ありがとうございます」
誰だろ。このおじいさん。
取引先のファイルにもなかった人だけど。
にこやかにエレベーターに乗り、社長室に入る。
「直真、来てやったぞ」
「お一人ですか。護衛はどうしました?とうとう死にたくなりました?宮ノ入会長」
宮ノ入会長!?
いや、それはいいとしても、聞き間違えかな?社長は優しげな顔をしているのに目は冷ややかだった。
「年相応な相手と茶でも飲んでいたら、いいじゃないですか」
「これに目を通しておけ」
ドサッと風呂敷包みを放り出した。
大量の写真?
「有里さん。これ、廃品回収に出してください」
廃品回収って。
これってお見合い写真じゃ!?
ひえー!
こんなに来るものなんだ!
「すごいですね!どうやってここまで集めたんですか」
「わしの人脈だ」
「はあ、人脈」
おじいさんは得意気に言った。
こんなに人を集められるとか。やはり、ただ者じゃないわね。
「お茶どうぞ」
「うむ」
「水道水でいいですよ」
水道水って。
おいおい。
さすがの私も苦笑だよ。
「いい歳をして、誰かいないのか」
「は?いますが」
「どうせ、遊び相手しかおらんのだろう。寂しいやつだな」
「遊び相手すらいないジジイには言われたくないですね」
二人の間には寒々しい風が吹いていた。
仲悪いのかな。もしかして。
「まあまあ。社長。このお見合い写真。せっかく集めてくれたんですから。いったんは受けとりましょうよ。見たら、私が責任もってシュレッダーにかけておきますから」
「シュレッダー!?」
会長がギョッとして、前のめりになった。
「個人情報ですからね。廃品回収のほうがよかったですか?」
「いや、シュレッダーで」
社長は笑っていた。
「有里さんは面白いな。よかったら、今日、美桜さん達も呼んで一緒に食事でもどうかな」
「予定があるのですみません」
即決即答。
きっぱり断った。
会長が驚いていたけれど、社長はもっと驚いていた。
「まてまて!直真のどこが不満だったのか、聞かせてもらえんか」
「社長に不満なんてないですよ。失礼します」
ぱたん、とドアを閉めた。
そう。
今日は予定がある。
レアアイテムを落とす敵が出現するのは18時からのはず。
私の計算ではそうでている。
定時に帰るために会議資料の作成やら、お礼状の作成、季節の挨拶状をハイスピードで片付けたのだった。
レアアイテムのために―――
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