サヨナラの前に

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最後のキスはほろ苦いショコラの味がした。 『サヨナラ』 耳元できみはそう呟き 背を向け消えていった。 頬をつたう涙が何を意味するのか それは・・・。 桜が舞う。 ひらひらと桜ノ雨のように 舞ってそして堕ちてゆく。 桜並木をゆっくりと歩きだす。 彼の人(あのひと)のことはもう・・・忘れよう。 雨が降っていた。 冷たい雨だ。 少しずつ僕の体温を奪ってゆく。 幻だとわかっていても手を伸ばす 君が微笑んで目の前に立っているかぎり 僕は、君を忘れることはないのだろう。 君が消えた夜 君との最後を過ごしたあの日を思い出していた。 『サヨナラ』 その言葉は聞きたくない 聞きたくないんだ。 不器用な僕だから 器用な君には似合わなかったのかもしれないね。 ねぇ 最後のわがままを聞いて 零れそうな雫をこぼさないように そう言い微笑んで見せた。 君はすこし哀愁おびた笑顔で僕のわがままを受け入れてくれた。 『ごめんね。・・・ありがとう。好きでした。』 『・・・サヨナラ』 最後のキスは、ほろ苦いショコラの味がした。
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