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人の赤、化物の赤
誰かが指を指して言った。
「あんなところに可愛い猫がいるね。」
続いて隣の誰かがこう言った。
「本当だ!何処から来たんだろう?触れるかな?」
すると周りの皆が一勢に猫に群がり、声をかけたり撫でたりして自らの欲求を行動に移し出した。
だから僕はナイフで猫を切りつけた。
どろっとした血がナイフに付いて、周りの皆に飛び散って、誰かが悲鳴を上げて、最初は暴れた猫もみるみるその体温は失われ息絶えてゆく。
「どうして?なんでこんな事するの?猫が可哀想だよ!」
怒り恐怖と悲しみが入り混じる瞳が僕の心を真っ直ぐ射抜く。
「生きている物が必死で生きようとする姿が見たいんだ。だからナイフで切りつけた。皆がしたい事をしていたから僕も同じようにやっただけだよ。」
「そんな事して何の意味があるの?何言ってるか全然解かんないよ!酷いよ…。」
あぁ…そうだった…。
猫は可愛がる物。それがこの世界の当たり前。
いつだって世界は大衆の価値観によってその形状を維持している。
でも僕にとって猫は、いや、自分以外の全ての物はこの胸の内の欲求を満たす為だけに存在している。
何故それがいけないのだろう?何故誰も解ってくれないのだろう?
「お前なんか人間じゃない!化物!!死ねばいいんだ!!」
誰かが僕からナイフを奪い僕の胸に突き刺した。
僕は人でありながら人ではない何か。
人になりきれない憐れな化物。
この世界には化物が生きていける場所はないのだろうか?
皆の笑い声がだんだん遠くなってゆく。
ナイフが刺さった傷口、化物の僕の身体からは温かく赤い血が流れていた。
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