真っ白な、その雪に。

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真っ白な、その雪に。

 溶けかけた雪の上を歩きながら、冷たい空気に顔を叩かれる。首に巻いたマフラーは何度も外れかけ、ブーツは水分を含んでぐしょぐしょである。 「.........。」 家を出ていった幼馴染の足跡を辿って辿り着いたのは、本当に何もない野原だった。木も生えていなければ、民家もない。勿論、辿ってきた足跡以外の足跡もない。「死ぬならこういう場所かもな」などという事を考えた所で、足跡が消えた。 「......何もなく、はないか......」 そしてここは、何もない野原ではなかった。 目の前の道祖神を見て、俺は「参ったな」と頭を掻いた。  あいつが家を出たのは、雪が降る真夜中。再会に喜んで酒を交わし、お互い酔って寝ていた時の事だった。玄関からの物音に目を覚ました俺が玄関へ行くと、そこには帰り支度をする幼馴染がいた。 「......帰るのか?」 「うん。そろそろ"終わり"だからね」 トントンと爪先を整え、幼馴染は寂しそうに笑った。俺が「へぇ、じゃあもう暖かくなるのか」と冗談っぽく笑うと、幼馴染は「そういう事だな」ともう1度笑った。 「道に迷わないように気をつけるわ。じゃ、またな」 「... おぉ、またな」 ヒラヒラと手を振る幼馴染に手を振って、俺は今年最後の姿を見送った。 そして朝を迎え、目が覚めた俺は、厚着をして家を出た。顔も洗わず歯も磨かず、ボサボサの頭も伸びかけの髭もそのままで。  「...迷わないように、か」 目の前の道祖神を見て、俺は鼻を鳴らした。これは別に道標ではない。ただ旅人の道中の安全を見守る神様である。 「...来年も会おうな」 真っ白な雪に消された足跡を振り返る勇気もなく、俺は道祖神を見下ろして笑った。
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