21人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
「もしよかったら……これを使ってもらえると嬉しいです」
朝宮さんはそう言って、少し得意げに白いビニール袋を手渡してきた。
俺がよく行く楽器店のものだ。
「これは……?」
「差し上げます。では、ごきげんよう。竹居君」
朝宮さんはにっこりとすると、良い香りだけを残して颯爽と自分の席に戻っていったのだった。
呆然とする俺。
「朝宮さん、竹居君に何か渡してたけど仲良かったっけ?」
「何だアイツ。あの可愛らしい朝宮さんに話しかけられるとは……うらやま……ケシカラン」
「あれか? 金持ちが庶民に施しでもしたのか?」
朝宮さんの行動にクラス内がざわめいた。
俺はクラスメート達のざわめきを無視し、袋を開ける。
袋の中には、四角い紺色の箱があった。
「サックスのリード(木製の薄片)?」
どうして俺がサックスをやっていることを朝宮さんが知っているんだろ。
んん?
サックスは音域に応じて何種類かあり大きさが異なる。リードも同様だ。
朝宮さん、これアルトサックスのやつ。俺のはテナーサックスだよ……。
でも……このリードは大切に取っておこう。
ふと気がつくとまた夜叉が俺を睨み、「チッ」と舌打ちをするのが聞こえた。
朝宮さんと俺が喋っていたのが相当癪だったようだ。
「なあ、朝宮さん。あの包みは何? 竹居とどういう関係——」
ある男子が朝宮さんに果敢に突撃する。
しかし、相変わらず彼女は、突き刺すような鋭い響きで答える。
「あなたには、関係ない話です」
その声のトーンは、教室を静まり返させるほど低く冷たいものだった。
最初のコメントを投稿しよう!