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一週間後。
贈り物を受け取った日以降、朝宮さんと接触はない。
そしてまた水曜日がやってくる。
水曜日の放課後、旧校舎音楽室の片隅。
窓から見える空はまだ明るい。
俺はいつものようにサックスの演奏というか練習を一人でしていた。
久しぶりにイギリスのミュージシャンが作曲した「マイ・ラブ」という曲のソロを吹いてみる。
思いっきり音を出せるというのは、楽しいとは思う。
ただ、聞いてくれる人も、共に演奏してくれる人がいないのは寂しいと思うことが増えていた。
「そろそろ辞め時なのかな」
ひとりつぶやくと、入り口の戸の小窓に黒い影が見えた。
廊下に誰かいるようだ。
しかし……その影は去るわけでもなく、音楽室の戸を開けるわけでもなく。
不思議なことに動く様子がない。
不気味だ。夜叉みたいな俺に敵意を持ったヤツじゃないといいのだけど……。
誰だろう?
俺は楽器をスタンドに置き、ガラッと戸を開ける。
「何か用? ……えっ!? 朝宮……さん?」
そこには、ぼろぼろと大粒の涙を流しているお嬢様がいたのだった。
「あぅ。た、竹居く……ん」
彼女は、ずぶ濡れになった猫が助けを求めるように泣いていた。
この後、お嬢様朝宮さんの天然なところや可愛さを、俺だけが知ることになる。
そして、俺の高校での生活は、とても明るいものへと変わっていく——。
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