無力な入学式

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「大丈夫か!」  あれ? 静かだ。静かすぎる。教室の後ろでは、金髪の女子があくびをしてた。 「ふぁーあ。早く作業してーんだけど。座っても金にならねえよ」  こいつ、俺が挨拶しても 『あー眠っ』  って言ってたからな。やる気のなさと態度の悪さが気になるが、そこまで不良には見えない。どうせ万引きとか、軽犯罪のたぐいだろう。 「ちょ、誰? 看守なんか呼んだの」  金髪の隣にいる、黒髪おかっぱ頭が顔をしかめた。 『油断すんな』  警戒心バリバリのあいつか。 「看守じゃない、先生と呼べ」 「どうでもいい。っていうか、たかが乱闘で来ないでくれる? ウザいんだけど」  な、なんて反抗的な! 俺様は教師だぞ? グール家の次男なんだぞ? たかが一生徒、前科者のクズの分際で 「うう、助けてえ」  ふと見たら、男子生徒が倒れている。そうだ、喧嘩だ! 喧嘩を止めに来たんだった!  「痛いよお」 「大丈夫か!」  しかもこの子は校長のご子息、アルマ・ドラゴナンじゃないか! 俺を見て 『優しそうな先生だね』  って褒めてくださった方だぞ! せっかく気に入られて、出世できるチャンスなのに! 不登校にでもなられたらどうする! 「どうした、誰にやられた」 「いいです。とにかく保健室に」 「うふふっ」  頭上から声がする。栗色の髪の毛を縦ロールにした、いかにもお嬢様らしい女子だ。目には一点の曇りもなくて、犯罪をしそうには見えない。 「ねえねえ先生。先生って強い?」 「こんな時になんだ」 「つーよーい?」  お嬢様(?)は、きらきらした目でこっちを見てくる。バカか? 空気読めないのか? 追い払いたいところだが、本当にお嬢様なら厄介だ。  腕時計は、エルヴィサーチの限定デザイン。時計マニアなら、すぐわかる高級品だ。  もし下手に出て、有力な保護者に目をつけられたら、クレームどころの騒ぎじゃ済まない。  それよりも適当に媚びて、出世のチャンスを作っとこう。 「うん」
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